榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

サスペンス満点の推理小説、そして、哀歓が滲む愛の物語・・・【山椒読書論(109)】

【amazon 『見知らぬ顔の女』 カスタマーレビュー 2012年11月24日】 山椒読書論(109)

あなたは、推理小説に夢中になって、遂に夜を明かしてしまった、そんな経験がありますか? 推理小説のページを繰るときの、あのぞくぞくっとする快感を味わったことのない人は、不幸な人だと思う。

見知らぬ顔の女』(草野唯雄著、角川文庫。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)は、恋人に裏切られたイラストレイター・能登渉が、夜の銀座で若い女性と知り合うシーンから始まる。彼は、自分と同じように人生に絶望したその女性に惹かれる。二人は飲み回り、タクシーを乗り回す。ちょっとしたことからチンピラに追われ、とあるビルの9階に隠れるが、女性は睡眠薬自殺を図る。慌てて救急車を呼びに飛び出した能登は、轢き逃げされて入院。朝になれば、ビルのガス栓が開かれ、女性は確実に死ぬ。あと数時間! 能登の微かな記憶を頼りに、必死のビル捜しが始まる。そして、遂に警察がビルの所在地を捜し当てた時、この女性に意外な死の魔手が忍び寄る。

推理小説という性格上、これ以上は紹介できないのが残念だが、これほど、息をも吐かせぬサスペンスで迫ってくる書には、お目にかかったことがない。思わず唸らされる謎解きが控えている。さらにもう一つ、意外な結末には息を呑むことだろう。

深夜の東京を舞台に繰り広げられるこの作品は、よくできたミステリであると同時に、大都会の片隅に生きる孤独な男女の哀歓が滲む愛の物語でもあるのだ。

職場の人間関係に疲れたとき、仕事の進行がはかばかしくないとき、この本は、あなたに一時の慰めを与えてくれる。