榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

メスにもてたいオスの一心がジュウシマツの歌を進化させた・・・【山椒読書論(181)】

【amazon 『さえずり言語起源論』 カスタマーレビュー 2013年4月28日】 山椒読書論(181)

飼育が容易なことから、小鳥飼育の入門鳥とされるジュウシマツの歌にじっくり耳を傾けたことがありますか? これが意外に複雑で、何と文法まであるというのだから、驚きである。『さえずり言語起源論――新版 小鳥の歌からヒトの言葉へ』(岡ノ谷一夫著、岩波科学ライブラリー)は、この文法はオスがメスの気を惹くために、より華麗な歌を歌おうとして進化したのではないか、さらに、このことからヒトの言語の獲得過程も説明できるのではないか――という大胆な仮説を展開している。

この書で対象とされているのは、状況に応じて発せられる短い音声「地鳴き」ではなく、求愛や縄張り防衛の場面で発せられる長い音声「さえずり」のほうである。また、ここで「文法」というのは、学校で習う五段活用とかではなく、一つひとつの音をどう並べるかという規則を意味している。

ジュウシマツは日本で作出された小鳥だ。原種のコシジロキンパラを九州のある大名が240年も前に中国から輸入し飼い馴らしていくうちに、今のジュウシマツになったらしい。

動物行動学を確立した功績によりコンラート・ローレンツらと1973年にノーベル生理学医学賞を受賞したニコラース・ティンバーゲンが提唱した研究の枠組みに、「4つの質問」というものがある。行動のメカニズム、発達、機能、進化に関する質問だ。著者は、多くの学生や研究員(著者が各人の氏名と研究テーマを明記しているのは、好感が持てる)の協力を得て、「ジュウシマツはなぜ複雑な歌を歌うのか」というテーマのもと、この4つの質問に答えるべく、研究・実験を進めていく。

一連の独創的な実験の結果、著者の仮説が次々と裏付けられていくが、その過程は刺激的である。