榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

アランの哲学に触れると、スキップしたくなる・・・【山椒読書論(213)】

【amazon 『アラン教授の世界一幸せになれる授業』 『幸福論』 『幸福論――若い人のための人生論』 カスタマーレビュー 2013年7月4日】 山椒読書論(213)

カント、ヘーゲルらの観念的な哲学と異なり、アランの実践的な哲学は親しみ易く、分かり易い。これには、アランの資質だけでなく、彼が長いこと高校の哲学教師として生徒たちに接してきたことが影響している。

アラン教授の世界一幸せになれる授業』(上之二郎著、アスコム)は、もともと理解し易いアランの哲学が、これ以上はやさしくできないと思うほど噛み砕かれているので、ドンドン頭に入ってくる。

なぜなら、フーちゃん、アプリさん、ドンボくん、コモルくん、グッチーさん、ロンリーさん、ミレンさん、ウツリギくん、パンパカさんといった、それぞれの性格が名前に表れている現代の若者たちの悩みや相談事に、アラン先生が丁寧に答える会話で構成されているからである。

例えば、「身体を少し動かすだけで気分や感情はコントロールできる」の節で、アラン先生はこう語っている。「じゃあ、握りしめている拳を開いてごらん。それで、開いた拳を上に向けて広げて、相手のほうにその手を差し出してみるんだ。こんな簡単な動きで、怒りの虫はたちまちどこかに消えていってしまうから」、「不機嫌を退治する即効薬は、やさしさや幸福をまねることなんだ。心が苦しいときは、楽しいふりをすればいいんだよ。たとえば、つくり笑いをしてみることだ。自分でむりやり口角を上げて微笑むまねをしてみればいい。人は、微笑んでいる相手を怒る気になれないものなんだ。それが自分自身でもね」。

別の節では、「スキップしながら怒ったり悲しんだり不安になったりすることはできないよね。スキップしていると、怒りも悲しみもいつの間にか消えていく。こんなふうに、身体を動かすと、悩みごとはどこかに消えてしまうんだ」と言っている。いいことを聞いたので、早速、スキップを試したところ、バッチリであった。

「幸福になるのは『義務』だ。自分が幸福になれば、人に希望を与えられる」の節では、「私たちが自分を愛してくれる人たちのために成しうる最良のことは、やはり自分が幸福になることなんだ。幸福であろうと欲し、幸福になろうと心に決め、そのために本気で取り組まなければならない。どっちつかずの傍観者を装い、トビラを開いてただ幸福を待っているだけでは、きっと悲しみが入ってくるだけだよ」。

別の節では、「でも、本当の楽観主義者というのは、感情や気分に流されないで、どんなときでも自分の意志で幸福になろうと決意している人のことなんだ。こういう人は、ものごとの深刻さに目を奪われてへたり込むのではなくて、どこかに突破口がきっとあると確信して行動するんだ」。

また、別の節では、「そうだとも。人は、なにかを成し遂げた満足感や達成感を味わったときに幸福を実感するんだ。だから、それが期待できそうなときには、その人はすでに幸福を持っていると言えるんだよ」。

「未来を知りたがって占い師の予言に耳を貸してはいけない」の節では、「占い師はこんなふうに、予言という呪いをかけることでひと財産築いてきたんだ。だから、未来を知りたがる病は退治しないといけないんだよ」。

「上機嫌こそすばらしく、惜しみなく与えられる最高の贈り物なんだ」の節では、「人に怪訝な視線を浴びせたり、人をけなせば険悪な摩擦が起きるし、人を非難したり責めれば摩擦は決定的になってしまう。そんなことになるよりは、相手の長所を見つけ出して、褒めて喜ばせたほうがずっといいだろう。非難するよりも、褒めるべきことを見つけてやるべきなんだ。すると、不思議なことに、その相手はそういう自分になろうとする。人のアラ探しをしたところで、なんの役にも立ちやしないさ」。

アランの言葉そのものを直に味わいたい人には、数多くの訳書がある中で、『幸福論』(アラン著、白井健三郎訳、集英社文庫)、あるいは『幸福論――若い人のための人生論』(アラン著、宗左近訳、社会思想社・現代教養文庫。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を薦めたい。