榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

イギリス嫌いの人に捧げる本・・・【山椒読書論(331)】

【amazon 『イギリスは愉快だ』 カスタマーレビュー 2013年12月10日】 山椒読書論(331)

イギリスは愉快だ』(林望著、文春文庫)は、私たちを混乱させる本である。

難しいことがさりげなく、そうかと思うと、卑近な現象がちょっと気取った文章で綴られているが、どのエッセイも隅々まで工夫が凝らされている。洒落たタイトルといい、明快な文体といい、意外性を秘めた個性的な切り口といい、上質なエッセイに必要なものが全て揃っている。

また、この書は、イギリス嫌いであった著者が、なぜイギリスを好きになったのか、その経緯を記した報告書と見做すことができる。このことについては、著者自らが「豚の個人主義」という章の中で、「私自身は根っからの個人主義である。イギリスという国の気持ちの良さは、景色の良さや気候の快適さといったような表面的なことによるのでなく、実はこの国の個人主義的社会の風通しの良さによるものだったと気づいた」と述べている。

本書を読み終わるや否や、どんなに頑固なイギリス嫌いであっても、イギリス贔屓に変身している自分を発見することだろう。