榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

快刀乱麻を断つ匿名書評の切れ味に酔う・・・【山椒読書論(332)】

【amazon 『狐の書評』 カスタマーレビュー 2013年12月10日】 山椒読書論(332)

狐の書評――活字倶楽部』(狐著、本の雑誌社。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)は、何とも大胆不敵な本である。

「日刊ゲンダイ」という夕刊紙に、22年半という長きに亘り連載された800字の匿名書評の一部を収めたものであるが、その筆鋒はあくまで鋭く、論旨は実に明快である。当時の新刊書は言うまでもなく、古今東西の書が切れ味抜群の小気味いい文体で、次から次へと料理されていくので、思わずぞくぞくと快感を覚えてしまう。

例えば、狐の『イギリスは愉快だ』(林望著)に対する書評は、次のような文章で始まっている。「つくづく思わせられたのは、英国人のハナのかみ方を桁外れの明快さで説明できる文章は、名文と称せざるをえないということだ。第5章「ささいな文化」を読むべし。彼らがいかなる『構え』でハナをかむのか、その所作と手順が快刀乱麻を断つ日本語で書かれているからだ」。

連載終了後、狐自らが「山村修」という実名を明らかにしたが、2006年に56歳で病没。我々は、文字どおり快刀乱麻を断つ、得難い書評家を失ったのである。