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インフレーション理論を実証する確かな証拠が見つかった・・・【山椒読書論(439)】

【amazon 「日経サイエンス2014年6月号」 カスタマーレビュー 2014年5月2日】 山椒読書論(439)

日経サイエンス2014年6月号」(日経サイエンス社)に掲載されている「インフレーションの証拠を観測」(中島林彦著、佐藤勝彦・羽澄昌史・小玉英雄協力)は、宇宙論、とりわけ宇宙の始まりに関心を持つ者にとっては、見逃すことのできない記事である。

宇宙誕生直後に超光速での急膨張が起きたとするインフレーション理論を実証する確かな証拠が南極での天文観測から得られたというのだ。

「インフレーションなど大きな変化が立て続けに起きたのは誕生直後の約1秒間で、それから約38万年後にもう1回、大きな変化(=「宇宙の晴れ上がり」)があった。最初の1秒間の出来事の推定時刻とエネルギー状態は理論によって様々だが、ここでは素粒子論の標準モデルの発展版である大統一理論をベースにした『ニュー・インフレーション』モデルに沿って紹介する」。

「判然とはしないが、宇宙は膨張も収縮もしていないふわふわした状態で誕生したようだ。宇宙のサイズは1個の原子よりもはるかに小さく真空状態になっていたが、その真空は文字通り天文学的なエネルギーに満ちていた。宇宙誕生約10-44秒後、その真空の状態が変化した」。宇宙を満たす真空で、ある種の相転移が起き、重力、電磁気力、「強い力」、「弱い力」という4つの力のもとになる力が生じたのである。「10-44」は、「-44」が上付きに表記されていないが、「10のマイナス44乗」を表している(以下、同じ)。

「宇宙誕生の約10-36秒後にインフレーションが始まり、空間が超光速で膨張を始めた。宇宙誕生から約10-34秒後にインフレーションが終了、急膨張をもたらした膨大な量の真空のエネルギーが熱エネルギーに変換されてビッグバンが起こり、宇宙は火の玉状態になった。この時に膨大な量のクォークや電子、ニュートリノ、正体不明の暗黒物質粒子、光子など力を伝える各種の粒子が生み出された」。ここでいう「ビッグバン」という用語と、宇宙の始まり全体を指す「ビッグバン」という用語の使い分けに注意が必要である。

「今回、宇宙マイクロ波背景放射の振動方向の偏り(偏光)の状況が詳しく観測され、天球に偏光の向きを記したマップを作成したところ、渦巻パターンが浮かび上がった。インフレーションで生じた、宇宙サイズの時空の歪みを起源とする『原始重力波』でなければ作り出せないパターンで、『Bモード偏光』と呼ばれる。これはインフレーション理論を実証する確かな証拠となるが、さらなる偏光観測による検証が不可欠だ」。今回のBモード偏光の発見は、宇宙論にとってヒッグス粒子の発見よりも重大な意味を持つが、宇宙の秘密は、このように理論と観測が綯い交ぜになって明らかにされていくのだ。

蛇足であるが、2013年3月21日に公開された新しい数値を挙げておこう。「(欧州の天文衛星)プランクの温度揺らぎのスペクトル解析からWMAP(米国の天文衛星)で求められた宇宙年齢が微修正されて137億年から138億年へ、宇宙の全エネルギーに占める暗黒エネルギーの割合が72.8%から68.3%に、暗黒物質が22.7%から26.8%に、普通の物質が4.5%から4.9%に修正された」。