榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

尼崎連続殺人事件の角田美代子の背後には黒幕が存在していた・・・【山椒読書論(459)】

【amazon 『モンスター』 カスタマーレビュー 2014年6月26日】 山椒読書論(459)

角田美代子に主導された尼崎連続殺人事件と、松永太が犯した北九州監禁連続殺人事件の類似性に関心を抱き、尼崎連続殺人事件の報道にはできる限り目を通してきた私であるが、『モンスター――尼崎連続殺人事件の真実』には驚かされた。

著者の緻密かつ粘り強い取材によって、3つのことが明らかにされているからである。第1は、美代子の背後に黒幕が存在していたこと、第2は、美代子が北九州監禁連続殺人事件から学び、さらに進化させていたこと、第3は、美代子が丹念に日記を付けていたこと――である。

「1998年から2011年にかけて兵庫県尼崎市を中心に発生した連続殺人・行方不明事件は、これまでに犯人グループ周辺で8人が死亡し、さらに少なくとも3人、実際は10人近い変死者や失踪者がいるとされる、我が国の犯罪史に残る凶悪な事件である。・・・この尼崎連続殺人事件は、狙いは明らかにカネだし、実際に1億円以上の金品を奪っている。が、標的となった家族に集団で食い込み、暴力と甘言で洗脳した被害者家族の一員に肉親を殺害させるなどの手口から、きわめて希有な事件と言っていいだろう」。

「美代子に多大な影響を与え、『モンスター』を操った『黒幕』ともいえる男の存在を突き止め、事件の背後に潜む男女の愛憎や人間の業(ごう)、さらに長い間秘匿されてきた美代子の戦慄すべき新事実を明らかにしたこと。そして、それが尼崎連続殺人事件の真の犯行動機に繋がり、美代子が怪死した原因にも結びついていく衝撃の展開」が、詳細に綴られている。そして、「民事不介入の名の下に、くだらない面子と組織防衛意識から初動捜査に躓いた警察当局」を厳しく批判している。

「美代子の行動の根底には、もう一歩深く踏み込んだ思考法が見え隠れするし、そこにはいつもMの影がチラつき、その人生哲学や人心掌握術が反映している様子が見え隠れしている」。「当時、カルト教団や新興宗教団体との繋がりがあったMは、そこで学んだ詐欺的、脅迫的手法を盛んに美代子に伝授したことが予想される」。徹底的に暴力を振るうことで相手を屈伏させ、言うことを聞かせるのは暴力団の常套手段であり、美代子がそれをMから伝授されたことは、彼女の日記の記述や周辺の人物の証言などから明らかだ。後に暴力団幹部にまで上り詰めたMを、美代子は密かに愛し、崇拝し続けたのである。「Mは年齢こそ美代子より10歳前後は上だが、若々しくエネルギッシュな行動力を誇る。頭脳明晰で金融・証券の知識から最新のIT機器の活用方法にまで精通し、日常会話程度なら英語と中国語もしゃべれるという俊英だった」。

「美代子は北九州監禁連続殺人事件について、実によく知っていた。Mからいろいろと教えられていたことは、彼女が日記などに遺した記述から明らかである。それにしても、Mが北九州の事件のことを熟知していたのには驚かされる。しかも、ほぼリアルタイムと言っていいぐらい速く、そして、正確かつ詳細に美代子に伝えていたのだ」。この場面でもMが登場するが、美代子は北九州監禁連続殺人事件から学ぶだけでなく、その手法をさらに進化させていったのである。

「美代子は毎日のように、B5判やA4判のノートに日記を書いていた。その数は数十冊以上とされ、彼女が兵庫県警の留置場内で書いた分だけで5~6冊に上っていたが、その中に『自殺』について触れた箇所がある。『ごめんな 全部お母ちゃん(自分)が悪いから、責任取るわ』。最初のほうこそ、きれいな文字できちんと横ケイ線やマス目の中に収まるように書かれていたが、だんだん乱れてきて、最後は書き殴り状態になっていた。この文字の乱れが美代子の精神状態を如実に示し、最終盤には相当追い詰められていた様子が窺われる。そして、その最後のページには、こう記されていた。『私は警察に殺される』」。しかも、それ以降のページは何者かの手で乱暴に破り取られていたというのだ。