榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

卑劣極まりない男と、勇気ある若く美しい被害女性との鮮やかな対比・・・【山椒読書論(518)】

【amazon 『Black Box』 カスタマーレビュー 2018年2月19日】 山椒読書論(518)

Black Box-――ブラックボックス』(伊藤詩織著、文藝春秋)を読み終わった時、アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』とヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』を思い浮かべてしまった。レイプという犯罪を行いながら、時の権力者にすがり逃げ惑う卑劣な男と、勇気を持って事件を公表した、若く美しい被害女性の対比が鮮やかに描き出されているからだ。

レイプという卑劣極まりない犯罪は、決して闇に葬り去られていいものではない。

しかし、この事件は、さらに根深い漆黒の闇に閉ざされようとしている。権力者とその配下たちが自らと親しい関係にある犯罪者を庇い隠そうと蠢き回る様は、森友学園事件、加計学園事件、スーパーコンピューター詐欺事件と同じ構図である。

栄枯盛衰は世の常である。時の権力が失墜したとき、全てが白日の下に曝され、不幸な被害者である著者の勇気と取り組みが報われる日が訪れるだろう。

本書の中で、硬骨のジャーナリスト・清水潔と、その著書『殺人犯はそこにいる――隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(清水潔著、新潮文庫)から大いに励ましを得たと、著者が告白している。私も、清水は現在の日本で最高のジャーナリストだと考えている。