榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

鼠小僧の実像などを生き生きと伝える『甲子夜話』・・・【情熱的読書人間のないしょ話(106)】

【amazon 『松浦静山 甲子夜話』 カスタマーレビュー 2015年6月30日】 情熱的読書人間のないしょ話(106)

散策中に番(つがい)のキジバトを見かけました。キジバトは羨ましいほど夫婦仲がよく、いつも一緒に行動しています。我が家のキンモクセイにも何度か巣を作り卵を産んだことがありますが、残念ながら近所のネコに襲われ雛が巣立つまでには至っていません。赤いムクゲに初めて出会うことができました。因みに、本日の歩数は14,193でした。

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閑話休題、『松浦静山 甲子夜話』(高野澄編訳、徳間書店。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)は、実に痛快な書です。

平戸藩主・松浦静山(まつら・せいざん)が隠居後に綴った『甲子(かっし)夜話』には、彼の「異常に旺盛なる好奇心、情報収集の身の軽さ」によって集められた興味深い情報が詰まっています。

例えば、当時の大盗賊・鼠小僧については、原文に続き、このように訳されています。「鼠小僧という盗賊のことは以前から耳にしていたが、最近詳細を知ったので記しておく。『鼠』の呼称は、小穴をぬけ、人の行けぬ所に行き、壁をのぼり梁を走る、まるで鼠のようだというところから来ている。『小僧』は盗人のこと。・・・金に困らぬ鼠は何人かの女を囲っていた。(遂に逮捕された)鼠につづいてこの女どもを捕らえようと町方同心が駆けつけたが、どの女も『私は先日離縁されました』と離縁状を見せ、関係ありませぬ、とまるで相手にならなかった。変事を予測した鼠が離縁状を渡しておいたに相違ないが、盗人にはそれなりの仁義があるものと考えられる。・・・鼠は近眼なのだそうだ。とすると、あの軽快な作業がいかにして可能であったのか。・・・吟味では泰然とし、怖れる風はない。『天罰、不服はなし。どのような高塀でも難なく飛び越えて来たこの鼠、捕まった姿の情なさ、運の尽きであろう』。・・・十七年にわたる盗みだ、最近十年の盗みが約三千両と記憶はあるが、それ以前は覚えていないと言っている。ふだんの鼠は、博奕を別にすれば実直な人柄、冬にも袷一枚着るだけ、これといった贅沢は見せなかった。・・・ふだんの鼠は並以上の人相だった。・・・武家風というわけではなく、実直な職人の風。派手な縞をうまく着こなしていた。長唄が上手で、人に招かれて歌ったことも多い。旗本の家に行ったこともあるという。吟味拷問には少しも臆さなかった。市中引回しには大勢の見物人だったが、鼠は見物人を見て笑いながら引かれて行った」。

入手した情報をワクワクしながら書き留めている静山の息遣いが聞こえてくるではありませんか。