榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

なぜ多くの原発が建設され、多くの国民が原発は安全と信じてきたのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(544)】

【amazon 『原発プロパガンダ』 カスタマーレビュー 2016年9月27日】 情熱的読書人間のないしょ話(544)

大分以前のことですが、イタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館で、サンドロ・ボッティチェッリの「アペレスの誹謗」を見た時は、この絵にどういう寓意が込められているのか分かりませんでした。最近読んだ本で、次のことを知りました。画面右で王座に座っているのは「不正」で、その後ろから覆い被さっている黒衣の老人は「猜疑」、顔を寄せているのは「無知」です。画面中央で松明を手にした「誹謗」に頭髪を掴まれている裸の男は「無実」で、「誹謗」の後に「欺瞞」、その左側に「嫉妬」がいます。「誹謗」の右側で「不正」を指差している黒衣の男は「憎悪」です。そして、画面左端で右手を高く挙げている金髪の裸女は「真理(真実)」で、それを振り返っている黒衣の老婆は「悔悟」だというのです。

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閑話休題、『原発プロパガンダ』(本間龍著、岩波新書)には、恐ろしいことが書かれています。

地震国・日本に多くの原発が建設され、多くの国民が原発は安全と信じてきたのはなぜでしょうか。本書では、その種明かしがなされています。

電力会社が電気料金として国民から集めた巨大な金を元手に、大手広告代理店を使って、各メディアを多額の広告費で縛ることによって、長年に亘り国民を洗脳してきたというのです。「これら大量の広告は、表向きは国民に原発を知らしめるという目的の他に、その巨額の広告費を受け取るメディアへの、賄賂とも言える性格を持っていた。あまりにも巨額ゆえに、一度でもそれを受け取ってしまうと、経営計画に組み込まれ、断れなくなってしまう」。すなわち、メディアはスポンサーには逆らえないという構図が生まれているのです。

「2016年3月現在、安倍内閣が推し進める原発再稼働政策に則って、各地の電力会社は再稼働に向けて新たな原発プロパガンダを開始している。高額の出演料で釣ったタレントや著名人を繰り出し、笑顔で嘘八百を並べたてる方法は、3・11以前と何ら変わっていない。しかし、したり顔で原発の必要性を説く人々は、いまなお故郷に帰れない10万人に及ぶ方々の辛苦、賠償を巡って東電や国と争っている数万の方々の怨嗟をどう考えているのか。いったん事故が起きれば数十万、数百万単位の人生をメチャクチャにしてしまう可能性がある発電システムを存続させていく合理的な理由などあるはずがない。他国はどうあれ、地震が多く国土の狭い我が国では、原発はあまりに危険で信用できないシステムだ。それでもなお、その原発によって潤う人々によって、原発プロパガンダは復活した」。

巻末の、「どのような強者であっても、いずれは歴史によって裁かれる」という著者の言葉がずしりと胸に響きます。

著者が挙げている「メディアの情報に接する際の留意事項」を記しておきます。①メディアは決して潔癖ではなく、間違う、嘘をつく、利益誘導する存在だということを認識する。②ニュースを見る際、漫然と見るのではなく、その発信者、ニュースソースが誰なのか、何のために発信しているかを考える癖をつける。③大手メディアが同じ論調の場合、なぜそうなのか疑う。異なる意見がないか意識を持って探し、それぞれを比較して考える。④各メディアの企業特性、親会社、株主などを知っておくと、利害関係が理解できる。⑤そのニュースによって得をするのは誰か、逆に損をするのは誰かを考える。