榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

私の一番好きな脚本家・山田太一の全体像が俯瞰できる一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(701)】

【amazon 『山田太一――テレビから聴こえたアフォリズム』 カスタマーレビュー 2017年3月17日】 情熱的読書人間のないしょ話(701)

千葉県北西部を流れる利根運河の堤はナノハナ(セイヨウアブラナ)の香りで満たされています。ナノハナからナノハナへとモンシロチョウ、キタキチョウが飛び交っています。コヒガンが咲き始めています。カワヅザクラは葉桜になっています。因みに、本日の歩数は16,923でした。

閑話休題、私が一番好きな脚本家は山田太一です。そして、山田作品の中で、とりわけ気に入っているのは、『それぞれの秋』と『高原へいらっしゃい』です。彼の代表作とされる『岸辺のアルバム』ではないところに、私の天の邪鬼ぶりが表れています(笑)。

山田太一――テレビから聴こえたアフォリズム』(清田麻衣子編集、河出書房新社・KAWADE 夢ムック)で、山田太一の全体像を俯瞰することができます。

『それぞれの秋』は、1973年に15回に亘って放送されたテレビ・ドラマです。一見平穏な家庭の中に埋もれていた深刻な問題が徐々に露わになっていきます。1977年の『岸辺のアルバム』の先駆をなすような位置づけの作品ですが、この物語では多摩川水害で自宅が流れ去ってしまうという大事件が起こらないだけに、余計、平凡な日常生活に潜む怖さが胸に沁み込んでくるのです。

「山田太一が、木下恵介プロダクションの作家という制約から抜け出して初めて自分の個性を打ち出した脚本を書き、後の脚本家たちに大きな影響を与えたと言われる『それぞれの秋』は、お茶の間で幸せそうな会話を繰り広げるホームドラマの隆盛という当時のテレビ界の潮流に叛旗をひるがえし、家族は本当は互いにそれぞれの秘密を抱えて集まっている他人同士にすぎないという事実を暴露したドラマとして紹介されてきたし(クライマックスで父親が脳腫瘍にかかって自分が抑圧していた家族への悪口を一挙に話してしまう)、事実その通りなのだが、そのアンチ・ホームドラマ的な物語が、決してマイホーム主義批判のような堅苦しい理屈としてではなく、あくまでラジオのディスクジョッキーのような『パーソナルな語り』を通して提示されたということが重要な意味を持ったのだと思う」。

「実はこの小説(=J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』)こそ、『それぞれの秋』の主観的ナレーションの発想源になったと山田太一自身が説明しているのだ」。山田が『ライ麦畑でつかまえて』の影響を強く受けていたとは知らなかったので、びっくりしました。

「山田は、テレビドラマの世界に、若者のパーソナルな文化を導入しながら、同時にそうした反社会的な気分を社会のなかに包み込もうとした。その矛盾しあう二つの力が彼のアンチ・ホームドラマの魅力となっていた」。

『高原へいらっしゃい』は、1976年に17回に亘って放送されましたが、落魄した元一流ホテルマンを中心に、それぞれの前の職場で傷心を抱えた従業員たちが、八ヶ岳高原の荒廃したホテルを立て直そうと奮闘する物語です。私たち夫婦は、夏が来るたびに、当時録画したVHSを見直すことが習慣になっているだけでなく、ロケに使用されたホテルに泊まりに行ってしまう(老朽化のため、現在は宿泊できない)ほど、この作品を気に入っているのです。この作品から、厳しい環境の中にあっても、皆が力を合わせて頑張れば夢が叶うということを教えられ、後に社長を務めた時には大きな励ましをもらいました。

本書に出会って、ますます山田太一を好きになってしまいました。