榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

苦境に陥った800人の子供たちの命を救った男たち・・・【情熱的読書人間のないしょ話(800)】

【amazon 『陽明丸と800人の子供たち』 カスタマーレビュー 2017年7月1日】 情熱的読書人間のないしょ話(800)

散策中に見かけたシマススキが涼しげです。緑を背景にした橙色のヒメヒオウギズイセンの花が目を惹きます。因みに、本日の歩数は10,348でした。

閑話休題、『陽明丸と800人の子供たち――日露米をつなぐ奇跡の救出作戦』(北室南苑編著、並木書房)を読んで、人間に対する信頼感が甦ってきました。

本書は、ロシア革命後の混乱期に、ロシアの800人の子供たちを救った日本の船・陽明丸の事績を追った調査報告書です。

陽明丸は、米国赤十字社の要請に応じ、疎開先の南ウラルからシベリアまで避難してきた子供たちを、当時の首都・ペトログラードの親元に返すため、2つの大洋を横断し、機雷が漂うバルト海を通過するという、危険で失敗が許されない大航海に出航したのです。「子供たちは、その船の到着を心から待ちわびていました。まるで、自分たちを救い出すために、お伽の国からやってきた魔法の船のように思えたのです。子供たちは、陽明丸を見て歓声を上げ、はしゃぎ回りました」。

著者は、この大航海を成功させたキーパースンとして、シベリア救護隊長のライリー・H・アレン、陽明丸の船長・茅原基治、米国赤十字シベリア救護隊長のルドルフ・B・トイスラー(後に聖路加国際病院を創設)、陽明丸の船主・勝田銀次郎、シベリア派遣軍の高級幹部・石坂善次郎にスポットを当てています。「彼らは決して歴史を主導する立場にいた者ではなかった。あくまでも現場の人間として、個々の良心の命じるままに日々の活動を献身的に行なっていた。それが。ある日ある時、苦境に陥っている弱者の一団に遭遇し、彼らの運命を深く憐れみ、自分にできることをしなければと決意した。そのまま見過ごすことは、彼らの倫理観に反するものであった。それは同時にリスクを伴う行為だったが、彼らは敢然と行動に移した」。

嫌なニュースが多い中、心洗われる一冊です。