榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

『日暮硯』は真実を伝えているのか、はたまた虚構なのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(942)】

【amazon 『真田松代藩の財政改革』 カスタマーレビュー 2017年11月16日】 情熱的読書人間のないしょ話(942)

散策中、ダイサギ、コサギ、カルガモ、ハシブトガラス、ヒヨドリ、ムクドリ、シジュウカラに出会いました。カルガモの翼鏡が美しい青色であることに初めて気づきました。因みに、本日の歩数は11,718でした。

閑話休題、34歳の時、『日暮硯』(笠谷和比古校注、岩波文庫)に出会い感銘を受けたが、その後、『日暮硯』は虚構であると主張する小林計一郎の『虚像の藩政改革者――恩田木工』という論文を読み、真実なのか虚構なのか、ずっと気にかかっていました。

真田松代藩の財政改革――「日暮硯」と恩田杢』(笠谷和比古著、吉川弘文館)によって、このもやもやした気持ちをすっきりさせることができました。

「近年歴史学方面の研究には、この『日暮硯』に書かれていることは『フィクション』だというものが多くみられるようになった。『日暮硯』は松代藩外の物語作家がこしらえ上げた根拠のないつくりものだというのである」。

著者は、自らの検討を踏まえ、『日暮硯』は真実だという結論を下しています。「確実な史料による検討の結果、細部における史実との食い違いは認められるものの、『日暮硯』には現実の恩田改革の真髄が見事に描かれていることを確認しえた。恩田改革が象徴的に記述されており、その意味で『日暮硯』はこれからも読まれるべき書であり、私たちに実に多くのことを伝えてくれている含蓄に富む説話と言うことができるであろう」。

さらに、著者は、恩田杢による松代藩宝暦改革で一番重要なのは、『日暮硯』では具体的に記されていないが、「年貢月割金納制度」を骨子とする新税制の導入だと指摘しています。「注目しなければならないことは、それが3ヶ年の時限立法という形で導入されようとしていたという点である。これは杢の政治手法を考えるうえで、非常に重要な箇所なのである。杢は、(領民に対し)交換譲歩措置を施したのだから文句はなかろうといった形で、この新税制を一方的に押しつけるのではなく、あくまでも時限的措置として試行するという態度で臨み、そして3年後にその見直し、再検討の機会を設けることで、領民の心底からの同意に基づいて新税制を運営していくという契約的な立場を貫くのである」。

当時の松代藩で、領民による月割・金納は実現可能だったのでしょうか。「松代藩に商品経済が充分に浸透しているということであろう。商品経済が発達していなければ、そもそも領民が収穫物を換金することなど不可能だからである」。

『日暮硯』の成立事情にも言及されています。「『日暮硯』という書物は恩田杢に親しい僧侶の語ったところに基づいて述作したと跋文にあるとおり、あくまで伝聞的な性格のものであるから、そこに錯誤や作者の過度の理想化といったノイズが入り込むことを免れえないであろう」。