榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

あの文豪アントン・チェーホフが推理小説を書いていたとは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1219)】

【amazon 『世界推理短編傑作集(1)(新版)』 カスタマーレビュー 2018年8月25日】 情熱的読書人間のないしょ話(1219)

千葉・流山の生物多様性を考える勉強会に参加しました。当地区のカヤネズミ、ニホンアカガエルなどの棲息数減少が続いていることに危機感が強まりました。

閑話休題、『世界推理短編傑作集(1)(新版)』(江戸川乱歩編、創元推理文庫)には、江戸川乱歩が選び抜いた推理小説の短篇8つが収録されています。

とりわけ印象に残ったのは、アントン・チェーホフの『安全マッチ』と、ジャック・フットレルの『十三号独房の問題』です。

『安全マッチ』は、「1885年10月6日の朝、S県の第二警察署に、りっぱな服装の青年が出頭して、領主の退役近衛将校、マーク・イワノーウィッチ・クリヤーゾフが殺害されたと告げた。青年は顔面蒼白、極度に昂奮して、全身をふるわせていた」と、始まります。

クリヤーゾフの殺害事件を巡って、警察署長、検事、検事補等が犯人捜しに必死になる過程で、クリヤーゾフを巡るさまざまな人間関係が暴かれていきます。

そして、思いがけない結末が待ち構えているのです。

検事の若い検事補に対する、「きみの理論はよくわかる。ただ、全部が全部、なっとくできたといえんだけだ・・・それに、きみの話は物的証拠がたりん。とすると、ただの仮説にすぎんことになる」という台詞からも分かるように、本作品は見事な推理小説です。あの文豪チェーホフが推理小説も書いていたことに驚きました。

『十三号独房の問題』は、「思考機械」という異名を持つオーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン教授が、監視厳しい独房に入れられても、自分なら脳髄を使って1週間で脱出してみせると友人たちに宣言し、実際に独房に入ることになります。

何と、教授は見事に脱出を果たしてみせるのですから、これは密室物の本格推理小説です。

この著者のフットレルは、1912年のタイタニック号遭難事故で、37歳という若さで死去してしまいます。「思考機械」の脳髄を駆使して、沈没するタイタニック号から何とか脱出できなかったのでしょうか。