榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ネガティブ思考が身に染み付いていたフランツ・カフカ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1306)】

【amazon 『絶望名人カフカの人生論』 カスタマーレビュー 2018年11月20日】 情熱的読書人間のないしょ話(1306)

ミナミメダカとオオゲジをカメラに収めました。サザンカとツバキの交雑種といわれるカンツバキが濃桃色の花を咲かせています。あちこちで、桃色、白色のサザンカが咲き競っています。白い花を咲かせるチャノキもツバキ科の植物です。赤いトキワサンザシと橙色のタチバナモドキの実が鮮やかな対比をなしています。因みに、ほんじつの歩数ハ10,886でした。

閑話休題、『絶望名人カフカの人生論』(頭木弘樹編訳、新潮文庫)は、ネガティブ思考が身に染み付いていたフランツ・カフカのネガティブな言葉が満載です。

「彼(カフカ)は何事にも成功しません。失敗から何も学ばず、つねに失敗し続けます。彼は生きている間、作家としては認められず、普通のサラリーマンでした。そのサラリーマンとしての仕事がイヤで仕方ありませんでした。でも生活のために辞められませんでした。結婚したいと強く願いながら、生涯、独身でした。身体が虚弱で、胃が弱く、不眠症でした。家族と仲が悪く、とくに父親のせいで、自分が歪んでしまったと感じていました。彼の書いた長編小説はすべて途中で行き詰まり、未完です。死ぬまで、ついに満足できる作品を書くことができず、すべて焼却するようにという遺言を残しました。そして、彼の日記やノートは、日常の愚痴で満ちています。それも、『世界が・・・』『国が・・・』『政治が・・・』というような大きな話ではありません。日常生活の愚痴ばかりです。『父が・・・』『仕事が・・・』『胃が・・・』『睡眠が・・・』。彼の関心は、ほとんど家の外に出ることがありません。彼が関心があるのは自分のことだけなのです。自分の気分、体調、人から言われたこと、人に言ったこと、やったこと、されたこと・・・。そして、その発言はすべて、おそろしくネガティブです」。しかも、そのネガティブさは、人並み外れているのです。

「カフカほど絶望できる人は、まずいないのではないかと思います。カフカは絶望の名人なのです。誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはき、誰よりも前に進もうとしません」。情けないカフカに親しみを感じてしまうのは、私だけでしょうか。

●バルザックの散歩用ステッキの握りには、「私はあらゆる困難を打ち砕く」と刻まれていたという。ぼくの杖には、「あらゆる困難がぼくを打ち砕く」とある。共通しているのは、「あらゆる」というところだけだ。――断片

●ぼくはしばしば考えました。閉ざされた地下室のいちばん奥の部屋にいることが、ぼくにとっていちばんいい生活だろうと。誰かが食事を持って来て、ぼくの部屋から離れた、地下室のいちばん外のドアの内側に置いてくれるのです。部屋着で地下室の丸天井の下を通って食事を取りに行く道が、ぼくの唯一の散歩なのです。それからぼくは自分の部屋に帰って、ゆっくり慎重に食事をとるのです。――フェリーツェへの手紙

●ぼくはいかなる事にも確信がもてず、自分の肉体という最も身近なものにさえ確信がもてませんでした。気苦労が多すぎて、背中が曲がりました。運動どころか、身動きをするのも億劫で、いつも虚弱でした。胃の健全な消化作用も失ってしまい、そこで憂鬱症への道がひらけました。そしてついには、喀血までやりました。――父への手紙

●ぼくは人生に必要な能力を、なにひとつ備えておらず、ただ人間的な弱みしか持っていない。――八つ折り判ノート

●ぼくの人生は、自殺したいという願望を払いのけることだけに、費やされてしまった。――断片

●お父さんとぼくは、求めるものがまるでちがっています。ぼくの心を激しくとらえることが、あなたには気にもとまらず、また逆の場合もあります。あなたにとっては罪のないことが、ぼくには罪と思え、これも逆の場合があります。そして、あなたにとってはなんの苦にもならぬことが、ぼくの棺桶のふたとなりうるのです。――父への手紙

●ぼくは同級生の間では馬鹿でとおっていた。何人かの教師からは劣等生と決めつけられ、両親とぼくは何度も面と向かって、その判定を下された。極端な判定を下すことで、人を支配したような気になる連中なのだ。馬鹿だという評判は、みんなからそう信じられ、証拠までとりそろえられていた。これには腹が立ち、泣きもした。自信を失い、将来にも絶望した。そのときのぼくは、舞台の上で立ちすくんでしまった俳優のようだった。――断片

●ぼくは37歳。もうじき38歳です。でも、不眠と頭痛のせいで、髪がほとんど白くなりかけています。――ミレナへの手紙

●ぼくの病気は、心の病気です。胸のほうは、この心の病気が岸辺からあふれ出たものにすぎません。脳が、自分に課せられた心労と苦痛に耐えかねて、言ったのです。「オレはもうダメだ。誰かどうかこの重荷を少し引き受けてくれないか」。そこで肺が志願したというわけです。ぼくの知らないうちに行われた、この脳と肺の闇取引は、おそろしいものであったかもしれません。――ミレナへの手紙。カフカは結核に罹っていました。

カフカが婚約まで漕ぎ着けたフェリーツェについて、興味深いことが記されています。「カフカはなぜフェリーツェを好きになったのでしょうか? 初めて会った後で、カフカはフェリーツェの印象を日記に書いています。『女中かと思った』『間延びして、骨張った、しまりのない顔』『所帯じみて見える服装』『つぶれたような鼻』『ごわごわした魅力のない髪』『がっしりした顎』。まるっきり悪口のようです。ところが、そのすぐ後に続けて、カフカはこう書いているのです。『もうぼくは揺るぎない決断を下していた』。つまり、カフカのほうの一目惚れなのです。いったいどこを気に入ったのか? 『彼は彼女のたくましさにしがみ付きたいのである』とカネッティは言っています。たしかに、上に並べたフェリーツェの特徴は、身体が丈夫そうで、生活力がありそうです。それはカフカにはないものです。カフカは彼女のその力を頼りに、結婚へと漕ぎ出そうとしたのかもしれません」。「フェリーツェとの2度の婚約と2度の婚約破棄の後、カフカはさらに別の女性とも、もう1度、婚約をしています。ユーリエという女性です。しかし、彼女とも、けっきょく結婚することはありませんでした。結婚にあこがれ続けながら、そして婚約してくれる相手もいたのに、それでもついにカフカは結婚できませんでした」。

カフカの内面を知るには、見逃すことのできない一冊です。