榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

鉢かづき姫が、恋人の兄たちの妻たちとの嫁くらべに勝てた理由・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1339)】

【amazon 『日本のヤバい女の子』 カスタマーレビュー 2018年12月20日】 情熱的読書人間のないしょ話(1339)

いよいよ、クリスマスが近づいてきましたね。因みに、本日の歩数は10,952でした。

閑話休題、『日本のヤバい女の子』(はらだ有彩著、柏書房)は、昔話に登場する女性を巡るエッセイ集です。

とりわけ興味深いのは、「顔とヤバい女の子――鉢かづき姫」です。

「『ブスのくせに』という言葉が投げかけられると、周りで見ている人たちは勝敗が決まったような顔をする。・・・<ああ、もっと美人に生まれたかった!>。『美人』と『ブス』。美醜は一般的に女性の永遠の悩みとされている。いつどこで決まったのかは知らないが、そういうことになっている。美醜とは何か。多くの場合それは顔面の造形を指す。顔はあらゆる人の視線に晒され、しばしばマウンティングに使われる。例えば、スクール・カーストの大部分は容姿に由来する」。

「ブスであることは悪なのだろうか? そして、ブスであるかどうかはそんなに大きな問題なのだろうか」。

「(公家の中将の四男と鉢かづき姫の)二人の恋の源泉は顔と金ではなかった。顔と金でなければ、何が鉢かづき姫を強くしたのだろう。それは彼女のこれまでの経験全てだと私は思う。つらくても生きようとしたこと。慣れない仕事を頑張ったこと。自分の身に起きた出来事と折り合いをつけるため、幸福とは何かを考え続けたこと。鉢かづき姫を鉢かづき姫たらしめた時間全てが彼女の武器となった」。

「もしかすると鉢から出てきた顔の造形は、絶世の美女というほど特殊なものではなかったかもしれない。それが『美しく』見えただけかもしれない。『美しく見えた』のだとすれば、その理由は鉢かづき姫が恋人と一緒に家を出ようとしたところにあるのではないか、と私は推測する。(兄たちの妻たちとの嫁くらべの)決戦前夜、鉢かづき姫は<こんなのは屈辱だし、何の意味もない>と思った。好きな人と一緒になりたいだけなのに、わけのわからない価値観で、わけのわからない相手と戦わされるなんてとんだ茶番だ。・・・貧乏になるかも。のたれ死ぬかも。屋敷の外には色んな危険がある。その危険にさらされてでも、好きな人と一緒にいようと覚悟した。覚悟した人間の顔、それが『美しい女』としてみんなの前に現れたのではないか。鉢のなかから美しい顔を金が出てきたという展開は、顔と金という勝負に乗らないと決意した鉢かづき姫への、観音様、もしくは作者、はたまたこの物語を少しずつ改変しながら現代に伝承してきた人々からの計らいではないか。好き勝手に求められるのなら、こちらだって好き勝手してやれ。ルールに従っているふりをして、勝負ごと滅茶苦茶にしてやればいい。兄たち、兄の妻たちは他人に求めたレギュレーションによって勝手に恥ずかしい思いをし、勝手に負けを認めたのだ」。

『鉢かづき姫』は、幼い頃、私の好きな昔話だったが、今回、無性に読み返したくなってしまいました。