ドクターがベストと考えるプレゼンテーションとは・・・【MRのための読書論(105)】
ドクターが書いた本
MRにとって、ドクター、薬剤師に対するプレゼンテーションは、自社製品をより深く理解してもらう絶好の機会である。同時に、自分という人間をアピールする、またとない恰好の舞台でもある。
『医療者・研究者を動かすインセンティブプレゼンテーション』(杉本真樹著、KADOKAWA)は、プレゼンテーションに造詣の深い外科医が医療者・研究者のために書き下ろした本であるが、MRが参考にすべき事項も少なくない。プロダクト・アウト(作り手優先)からマーケット・イン(顧客視点)への転換に資するからである。
プレゼン思考
「(私の)経験からわかるのは、どんなに優れた研究や発表内容であっても、人に伝わらなければ価値がない、ということです。私は地域医療の場で、徐々に人に伝えることの大切さを学びました。そしてさらに、その後の渡米体験で、大きく価値観を変えることとなりました」。「現在の私は、大学病院の特命講師として研究や教育をしながら、医療従事者にも人に伝わるプレゼンテーションの楽しさを伝えたいと、講演やセミナーに飛び回っています」。
「『プレゼンというのは発表の場だけで行われるものではない』ということです。プレゼンとは、相手に情報を提示しながら自分を表現し、想いを伝え、理解・納得を得ること――、そう考えると、コミュニケーションそのものがプレゼンなのです。プレゼンという手法自体が、人とコミュニケーションを取るのに便利だからこそ、生み出されたとも考えられます。普段から自分の想いを相手に共感させるように思考回路をもっておくと、より良いコミュニケーションが生まれやすくなります。私はこれを『プレゼン思考』と名付けています」。すなわち、「伝える」から「人を動かす」へのヴァージョン・アップグレードである。
具体的なアドヴァイス
「本書は、医療従事者・研究者が『伝わる』プレゼンをするためのコンテンツの具体的な準備やストーリー展開、プレゼンターが行うべき立ち居振るまい、そして観衆との結びつきを、数々のキーワードとスライドで解説しています。また魅力的で説得力のあるスライドデザインやスピーチのコツ、観衆とのより効果的なコミュニケーションと、プレゼンの先にある本当の価値について、筆者の実体験と多くの優れたプレゼンター達から得た知見をふんだんに盛り込みながら詳細に説明しています」。
MRの参考になると思われるアドヴァイスを挙げてみよう。
●記憶に残るプレゼンは、「ストーリー」と「順序」がポイント ●プレゼンはWhy(問題提起・目的)→How(解決方法)→What(結果・影響)の順に。Whyはプレゼンターと聴衆の結びつきを、Howはプレゼンター・企業が行うことを、Whatはコンテンツを意味している ●タイトルも魅力的なプレゼンの重要ポイント ●黄金比(1:1.61)を採り入れたスライド・デザインで視線を集める ●課題→解決のプロセスを身近なことに譬えて、ゴールをイメージさせる ●未来(ヴィジョン)を予想させるデザインを ●聴衆に、もう少し聞きたい、突っ込んだ質問をしたいと思わせる「欠け」や「穴」を仕込んでおく ●プレゼン思考で共感するコミュニケーションを ●日常のコミュニケーションの中でもプレゼン思考を生かせ ●「エレヴェーター・ピッチ」の手法でトレーニングを。偶然、エレヴェーターで乗り合わせた相手を30秒で説得するというものだが、アメリカでは「偶然のエレヴェーターで起業家は投資家にビジネス・プランを30秒で伝えられなければ未来はない」とまで言われているそうだ ●ツイッターやフェイスブックで、日常の出来事をただ垂れ流すのではなく、一人でも多くの人と影響を与え合えるような表現ができないか、プレゼンのトレーニング代わりに試してみる
――著者は、「普段から『プレゼン思考』を持とう」、「『プレゼン思考』を身につけることで人生が変わる」と主張している。そして、さらに、「コミュニケーションの先にあるものは何か」を考えよと、一段上の課題を掲げている。
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