米国における「無駄な医療」公表キャンペーンとは・・・【薬剤師のための読書論(12)】
医療に携わる人々にとって、米国における医療の新しい動きを知っておくことは無駄ではないだろう。『絶対に受けたくない無駄な医療』(室井一辰著、日経BP社)は、その主張に賛成か反対かを問わず、目を通しておきたい一冊である。
「米国内科専門医認定機構財団(ABIM Foundation=ABIM財団)という組織が中心となり、米国医学会の71学会が無駄な医療を順次公表していく計画で、2013年までに50学会が無駄な医療を公表している。『Choosing Wisely(チュージング・ワイズリー)』。いわば『賢く選ぼう』と名づけられたキャンペーンである。挙げられる問題はごくありふれたものから、専門性の高いものまで幅広い。・・・身近な医療の問題に正面から取り組み、行う必要のない医療行為をすべて数え上げているのだ。キャンペーンが始まった2011年以降、参加する学会の所属医師数を考えると、全米の医師全体の8割が所属学会を通して関わっており、実質的に国家挙げてのキャンペーンになっている。既に『非推奨の医療』として名指しされているのは250以上を数える」。
その一部を具体的に挙げてみよう。
●「肺ガンのCT検診は、ほとんど無意味である」(米国胸部医師学会、米国胸部学会)→55~74歳のヘビースモーカー以外では効果が低い。
●「精神疾患ではない若年者には、『まず薬』で対処してはいけない」(米国精神医学会)→治療効果よりも、脳卒中や死亡、パーキンソン病のリスクが高まるなど不利益が多い。
●「大腸の内視鏡検査は10年に1度で十分である」(米国消化器病学会)→特別なリスクを持った人でなければ大腸ガンの危険は少なく、繰り返しても発見しにくい。
●「テストステロン値が正常な男性のED治療に、テストステロンを使用してはいけない」(米国泌尿器科学会)→テストステロンは性欲を上げるが、勃起力を上げる効果はない。
●「超高齢者のコレステロールは下げてはいけない」(米国医療ディレクターズ協会)→むしろコレステロール値が低い方が、死亡率が高くなる傾向がある。
●「6週間以内の腰痛には画像診断をしても無駄である」(米国家庭医学会)→6週間を超えないと検査では原因が特定できず、無駄なコストがかかるだけ。
●「前立腺ガンの陽子線療法は、ほとんど無意味である」(米国放射線腫瘍学会)→治療の有効性を示す調査や根拠がない。
●「4歳以下の子供の風邪に薬を使ってはいけない」(米国小児科学会)→風邪薬の有効性はほとんどなく、逆に副作用が増える。
●「リウマチの関節炎でMRI検査をするのは無駄である」(米国リウマチ学会)→診察とX線検査で十分に進行度を診断できる。
仕事の面から本書を読むほかに、人によっては患者あるいは患者家族という立場から手にするケースもあるだろう。58歳の父を前立腺で亡くした私にとって、「前立腺ガンの検診のために安易に『PSA検査』をしない」(米国家庭医学会、米国老年医学会、米国臨床腫瘍学会)といった、個人的に承服できない提言が散見されることを申し添えておきたい。