正月気分、旅人気分で味わう広重の東海道五十三次の昔と今・・・【情熱的読書人間のないしょ話(36)】
【amazon 『東海道――昔と今』 カスタマーレビュー 2014年12月23日】
情熱的読書人間のないしょ話(36)
年賀状の宛名は自筆でということを47年間続けてきました。時間はかかりますが、数百枚のそれぞれについて、一人ひとりの顔を思い浮かべながら思い出に浸ることができます。庭では、陽が当たっている餌台をメジロ夫婦、シジュウカラ夫婦、スズメ夫婦がしょっちゅう訪れています。
正月が巡ってくると読み返したくなる本があります。『東海道――昔と今』(徳力富吉郎著、保育社・カラーブックス。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)の、歌川広重の保永堂版東海道五十三次と著者のスケッチ旅行が織りなす絶妙な融合が、正月気分、旅人気分をいやが上にも盛り上げてくれるのです。
「時代の波に押しつぶされそうに見えながらも、歩いてみると、そこここに昔の旅人のわらじがけの姿を思いおこす風物や、大名行列を偲ぶ松並木も残っており、遊女たちが通り過ぎる旅人たちをとらえたであろう宿場の面影も思い浮かべることもできて、楽しい旅行であった」。
私の一番好きな「蒲原 夜の雪」では、広重の版画と自らのスケッチに、こういう文章が添えられている。「蒲原の町は国道に沿って旧道がよく残っており、昔の街道の面影が十分うかがえる。広重の蒲原は、保永堂版中随一の名版画であり、彼の62年の生涯中での最優秀作ともいわれている。・・・深々と降りつもる夜の雪、風もなく、山も木も家も無言、その中をサクサクとかすかな音をたてて歩く村人、傘をすぼめて行く人、蓑を着た人、すべて詩中の景物である。広重の蒲原は日本の代表的な風景画の一つであろう」。