榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「百万本のバラ」で歌われた貧しい画家・ピロスマニ・・・【山椒読書論(513)】

【amazon 『放浪の聖画家 ピロスマニ』 カスタマーレビュー 2015年2月18日】 山椒読書論(513)

小さな家とキャンパス 他には何もない
貧しい絵かきが 女優に恋をした
大好きなあの人に バラの花をあげたい
ある日 街中のバラを買いました
百万本のバラの花を
あなたに あなたに あなたにあげる
窓から 窓から見える広場を
真っ赤なバラでうめつくして
      <略>
小さな家とキャンパス 全てを売ってバラの花
買った貧しい絵かきは 窓のしたで彼女を見てた
      <略>
出会いはそれで終わり 女優は別の街へ
      <略>

放浪の聖画家 ピロスマニ』(はらだ・たけひで著、集英社新書ヴィジュアル版)によれば、この「百万本のバラ」で歌われた貧しい画家は、ニコ・ピロスマニをモデルにしているという。「この切ない恋の物語は、ピロスマニの繊細な魂と、孤独で薄幸といわれた生涯を象徴的に表している」。

ピロスマニは、1862年に、黒海の東、コーカサス山脈の南にあるグルジアの貧しい農家に生まれ、居を転々としながら、日々の糧と引き換えに酒場に飾る絵や看板を描き、1918年、孤独のうちに亡くなった放浪・孤高の画家である。作品の「テーマは人や動物、宴会や祝祭、農村の暮らしや歴史、店の看板などに大きく分けられ、いずれも故郷グルジアの風土への深い愛が感じられる。描かれた絵は一見素朴なようだが、しだいにピロスマニだけの類いまれなヴィジョンが見えてくる。優しく、あたたかく、懐かしく、しかし厳しく孤独な思いも伝わってきて、作品の彼方には人の抱く夢や憧れが、純粋に、普遍にまで高められた世界が広がる」。

本書には、ピロスマニの代表作がオールカラーで収録されているが、とりわけ「カヘティ地方の列車」「樽をかつぐ男」「酒袋をかつぐ男」「水を運ぶ農婦と子どもたち」が私の印象に残った。「『樽をかつぐ男』と『酒袋をかつぐ男』は、一対で描かれた作品である。いずれも苛酷な生活を強いられた男を描いたものだ。ピロスマニが、そのような下層の人たちを、繰り返し一対の絵にして人目を引くように描いたのは、何か考えがあってのことなのだろう。この男たちの厳しい労働で鍛えられた頑丈な身体、実直そうな表情から、みなから愛された魅力的な人物を想像させる」。