デザイン思考は、デザイナー以外のビジネスパーソンにも必要だ・・・【あなたの人生が最高に輝く時(52)】
デザイン目線
自分と同じ業界で頭角を現している人から学ぶべきことが多いのは当然であるが、異なる業界で際立った業績を残している人からもさまざまなヒントを得ることができる。違う業界・業種だからこそ、普段気がつかない点にハッとさせられるのだ。
この意味で、『問題解決ラボ――「あったらいいな」をかたちにする「ひらめき」の技術』(佐藤オオキ著、ダイヤモンド社)は、私たちの脳にさまざまな刺激を与えてくれる。佐藤がデザイナーとして実際に手がけた作品がカラー写真で示されるだけでなく、アイディアが結実するまでのプロセスが「オモテ面」として、そして、その補足が「ウラ面」として記載されているからである。
著者が言いたいこと、示したいことは、「デザイン目線で考えると、正しい『問い』が見えてくる」、「ありそうでなかった『アイデア』が見えてくる」、「ホントの『解決法』が見えてくる」、「刺さる『メッセージ』が見えてくる」、「見えない『価値』が見えてくる」ということである。
正しい「問い」
「センスよりも『好き』でいられるかがカギ」では、「『自分にはセンスがないから(できない)』と言う人がいますが、自分はセンスよりも『好き』でいつづけることこそが問題発見やアイデア出しにおいて重要だと思っています。・・・誰よりもそれについて考えて、誰よりもそれを好きでいること。そのことを意識して日々の課題に取り組むだけで、たとえばそれに付随することにいろいろ興味を持ったり、違うことであってもどんどんチャレンジできたりするんです」と語っている。
「チャンスは『3層構造』――運を味方につける方法」は、「待機しているチャンスは等しいかもしれないけど、それが自分の元に『訪れる』回数は、やはりその人次第かと。そして、そのチャンスを『認識』できるかどうか、『つかめる』かどうか。そんな具合に『チャンス』は3層構造だと考えます。中でも最後の『つかむ』というフェーズにこそ『運』の大半が含まれている気がしています。勝負事にはどうにもならない不可抗力が付きまとうからです。『認識』できるかどうかは、リサーチ量と勉強量に比例します。過去の事例を知ることで、目の前のチャンスから得られる見返りの大きさを予測できるからです。そして、最初の『呼び込み』ですが、これは努力量に比例するんじゃないでしょうか。『チャンス』というのは『女子』なんです、基本的に。目の前の仕事に脇目も振らずに夢中になっていると嫉妬し、自分のところに訪れる、と」と説明されている。私の経験に照らして、全く同感である。
ありそうでなかった「アイデア」
「アイデアは探さない――『ボヤっと見』で視点をズラす」では、「ボヤっと眺めて発見できたアイデアが、エレコムの『oppopet(オッポペット)』。本来はマウスの裏に隠すUSB型レシーバーをシッポの形にして、逆にあえて『見せる』ようにしました」とあるが、彼の作品が説得力を強めている。
「脳が快適と感じる『スイッチ』をいくつか持つ」には、「音楽でも喫茶店でも、どんな外的要因でもいいのですが、結局は自分の脳が快適だと感じる『スイッチ』をいくつ持っているかが勝敗を決めるのです」。著者の言うとおり、快適空間に身を置くと、アイディアが次から次へと湧いてくるから、不思議だ。
ホントの「解決法」
「逆算に学ぶ、デザインとマーケティングの違い」では、「デザインは、逆算してばかりの仕事です。一方、マーケティングは、これまでの数値や実績、結果を整理して、現状に反映させることと言えます。過去の出来事から今に向かってくるのがマーケティングで、『こうなりそうじゃないか』という仮説を立てて、そこから逆算していくのがデザインという感覚です。これは、どっちが正解という話ではなくて、マーケティングの情報がないとデザインもできないと自分は思っています」と、明快に分析されている。
刺さる「メッセージ」
「『素人目線』を持ちつづけるための『もの忘れ』のススメ」は、「あるプロジェクトについて考えているうちは、(抱えている300のプロジェクトのうちの)その1つのことしか考えていないんです。残りの299はすっかり忘却の彼方。しかも順を追って考えていくと、最初の1に返ってくるまでに300ステップもかかるので、いい具合に忘れられる、というメリットも」と、超多忙の著者の裏技が紹介されている。
「『ほどく』作業ですでにあるモノを棚卸ししよう」の、「その会社が持っているポテンシャルに当事者が気づいていないことは、案外多い。社長は気づいているけれども現場は気づいていなかったり、その逆だったり。その人たちが持っている本質的な価値をまずどうつかむかが、(冷蔵庫を開けてみて、残っている食材をもとに献立を考える)『主婦料理』の最初のプロセスだと思います」というアドヴァイスは、クライアント対策に使えるなあ。
「人が理解できる領域には4つの階層がある」ことについては、「人の理解できる領域は、階層状になっているように思うんです。一番外には、たとえば数字、スペック、価格というものがきます。これらは、万国共通で理解しやすいレベルです。その内側にくるのは、日々の生活や住んでいる地域において共有できる感覚や、時代の空気感といったトレンドみたいなもの。そのさらに内側に入ってくるのが文化的な要素です。『しっくり』感というのは、この階層の話。最後の中心にあたるのは人の本質的な部分で、それが、美味しいと感じるか、まずいと感じるかというところになります。たとえばアフリカの人であってもアメリカの人であっても日本の人であっても、これは美味しそう、まずそうというのが『なんかわかる』という感覚です。そういう本質的な部分に、体は自然と反応します。たとえば真っ暗闇の中で明かりをぱっとつけたら思わず反応するというのも、直感や本能といった人間として本来備わった要素がある。この4つの階層をどこまで意識しながらモノづくりや企画を考えていくかによって、本当のロングセラーになるか、さらっとワンオフで売れるものになるのか、変わってくる気がしています」と、分かり易く解説されている。
見えない「価値」
「整理、伝達、ひらめき。デザイン思考を構成する3つのカギ」の、「デザイナーに求められる価値は3つに集約されると思うんです。1つ目は、ものごとを整理すること。言い換えると、シンプルにすることです。これだけでも会社や商品開発にとっては大きい価値を生み出します。2つ目は、人に伝える、伝わるコミュニケーション。同じものであっても、しゃべり方によってわかりやすくなったり、つまらなくなったりします。直感的に伝わる伝え方でわかりやすく伝える。親近感のある表現と言い換えられるかもしれません。そして3つ目が、ブレークスルー、ひらめきです。ひらめきとは、飛躍させること。ものごとを何段跳びにも飛躍させてしまうような要素になります。自分もこの3つのバランスを、クライアントや状況に応じて使い分けていきます。実は、『整理』と『伝達』に関しては、デザイナーじゃなくても身につきます。整理するだけでも、これまで見えなかったものがよく見えるようになりますし、伝え方の工夫で目に見えない思いやメッセージを込めることができるようになります。デザインが持つ3つの役割を意識して課題に臨むだけで、今までとは違う解決策が見えてくるはずです」という指摘は、本質を衝いている。
「デザイン=現状を改善する糸口を見つけること」では、「何か現状を改善する。何かしら状況をよくする糸口を見つけるというのがデザインだと思うんです。3つの役割で言うと、整理するのもひらめくのもどちらも問題解決の方法だと言えます。・・・別にインテリアをやったりロゴを作ったりしなくても価値を生み出せる。そのために新たな視点を持ち込むことが、『デザイン的な考え方』なのです」と、デザイン思考が簡潔に要約されている。
「デザイン思考は誰でも身につけられる」では、「デザインを本職としないビジネスパーソンにも、デザイン的な考え方は必要です。既存の状況整理やいろいろな局面での問題発見、解決に役に立ちます。『整理』と『伝達』については、誰もが確実に身につけることができると思っています。デザイン思考を身につけた効果は、普段やっていることでも、よりその精度が上がったり、課題が『見える化』したりといった形で表れます」と、私たちを励ましている。
デザインの本質を理解したい、デザイン思考を身につけたいという欲張りな人には、恰好の一冊である。