医学アカデミアの社会的責任を多面的に考える・・・【薬剤師のための読書論(17)】
『医療レジリエンス――医学アカデミアの社会的責任』(福原俊一編集、医学書院)は、超高齢社会に突入した日本で、人々が「いかに長く生きるか」ではなく、与えられた寿命を「いかにより良く生きるか」に医学アカデミアがどのように貢献すべきかを考えるための提言集である。
例えば、ハーヴァード大学のIchiro Kawachiは、健康格差の問題をこのように考察している。「●人の健康のかなりの部分が、社会的因子によることがわかってきた。●医師は社会的因子と健康の相関関係を理解し、患者のバックグラウンドを知り治療に臨むべき。●所得格差の拡大、ライフスタイルの欧米化、華族の崩壊などにより日本の長寿も危ぶまれる。●バブル崩壊後は日本でも社会格差がじわじわと広がりつづけ、人々の無意識下で健康格差も確実に広がっている。●健康格差の解消には早期教育が重要である。学童期に健康格差は明らかな兆候として表れ、以降、どんどん差が拡大してしまう傾向が認められる」。医療の力では解消できない健康格差を解決する鍵は、早期教育だというのである。
英国国民保健サーヴィスのMuir Grayは、医療の価値を高めるために何をなすべきかについて提言を行っている。「●医療における価値には『分配の価値』『技術の価値』『個別化の価値』がある。●医療システムを、一次医療・二次医療・三次医療という階層構造から、セルフケア、インフォーマルケア、家庭医によるケア、専門医によるケアのネットワーク構造に変えていく必要がある。●医師は、自分が直接診療する患者のことだけを考えるのでなく、集団全体、住民全体を考える必要がある。●最終的には、医療の文化そのものが変わっていく必要があり、その兆しは既に見られている」。医師は、目の前の患者と同時に、集団全体を考えよというのだ。
これからの医療において、いかに責任を果たすべきかを真剣に考えている医療関係者にとっては、必読の一冊である。