昭和の香りがする作家や出版業界の裏話が満載のエッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(412)】
【amazon 『昭和にサヨウナラ』 カスタマーレビュー 2016年6月8日】
情熱的読書人間のないしょ話(412)
散策中に、滑車でロープを移動して遊んでいる少女たちを見かけ、私も子供時代に戻りたくなってしまいました。赤紫色の花を付けたタチアオイが伸び伸びと育っています。キュウリが黄色い花を咲かせ、実を付けています。農作業や庭いじりをしている人に植物の名前を尋ね、育て方を教えてもらうことで、会話が弾みます。あちこちでコスモスが咲き出しています。因みに、本日の歩数は10,429でした。
閑話休題、『昭和にサヨウナラ』(坪内祐三著、扶桑社)は、懐かしい昭和の香りがするエッセイ集です。敏腕編集者であった著書が、親しかった作家や出版業界の裏話を率直に綴っていますので、当該業界の人やこういう世界に興味がある人たちには堪らない一冊でしょう。
例えば、「丸谷才一さんのこと」の一節は、こんなふうです。「丸谷さんはとても可愛らしいところのあった人で、講談社文芸文庫の編集長がMさん(丸谷さん旧知の人)からTさん(未知の人)に代わる時、電話がかかって来て、坪内君あなたTさんとお知り合いでしょ、僕への紹介をかねて、四人で食事しません、と言った。そして麻布のイタリアンレストランで食事をして、トイレに行った私をその近くで待ちながら(つまり席から離れて)、坪内君、この店の勘定は君と僕とで割りましょう、と言った。その言葉を聞いて私は嬉しかった」。
「丸谷さんはこの手紙をこう結んでいる。<いつか『ニュー・ヨークで本を読む』という企画について触れていらしたことがありましたが、もしそれが『実現』、そしてもしそのときわたしが元気なら、役者陣のなかに入れて下さい。白髪を染めて加はりたいと存じます>。こう書き写していくと、丸谷さんの死が現実のものであることを知り、悲しみがこみ上げてくる」。