民主党政権の失敗が、現在の右派的政治状況を生み出した・・・【情熱的読書人間のないしょ話(417)】
姪の長男の誕生会に出席するため、東京・日野まで足を延ばしました。乗り換え駅の立川でねぶたの阿弖流為(アテルイ)と、大きな時計のねじを巻いているかわいらしい天使たちに出会いました。誕生会の一隅で、私の母を挟んで女房と写真に収まりました。因みに、本日の歩数は12,877でした。
閑話休題、『迷走する民主主義』(森政稔著、ちくま新書)は、現在の右派的な政治状況に強い危機感を表明しています。
「安倍政権は特定秘密保護法制定や集団的自衛権の行使容認など一挙に右派的な政策をとり、憲法改正を画策するなど、伝統的な自民党政治(保守本流)が封印してきた路線を実行しようとしていることで、多くの人々を驚かせている」。「閣議決定によって集団的自衛権の行使を認める憲法解釈を行なうとともに関連する安保法制を通過させた。このような政治のやり方に対して、選挙で多数の支持を得たからといって、数に頼って自らの政策を強行するのは民主主義的だといえるかどうかには深刻な疑問の声が上がっている」。
こうした認識のもと、こういう右派的な危険な政治状況を生み出すに至ったことには、政権交代で一時、政権を担当した民主党(現・民進党)に大きな責任があると、著者は主張しています。「(民主党に)代わって登場した安倍自民党政権は、当初は民主党に任せるわけにはいかないという消極的な世論に支持されて発足したが、その後顕著な右派的路線をとるようになる」。
そして、その民主党政権の失敗がしっかり検討されていないことが問題だと強調しています。「民主党政権とは何でありなぜ失敗したのかという反省や検討は、たしかに一部ではなされているが、あの政権交代時の期待や興奮の大きさと比較してみれば、ほとんど何もなされていないに等しい」。
民主党政権の失敗の本質が、その政治思想的な面から明らかにされていきます。この部分が本書のハイライトです。
本書の論旨・表現は明快です。例えば、「新自由主義(ネオリベラリズム)」は、このように説明されています。「その内容は、単純に言えば政府に信用を置かず、市場に合理性を見出す考え方である。このイデオロギーは、先進国の資本主義や経済成長に翳りが見えるようになった1970年代から強まり、79年から81年にかけて相次いで成立した、イギリスのサッチャー保守党政権とアメリカのレーガン共和党政権の指導原理となった。新自由主義にあっては、資本主義の原動力としての企業家精神や勤労が称揚される一方、福祉の受益者および再配分を行なっている政府の官僚制は、資本主義の発展を阻害する怠惰や不能率の原因として糾弾される。税金は強制であり自由の剥奪であるとして、政府支出の縮小が正義にかなうとされる。政府に頼らず、自己責任で生きることが、市民のあるべき姿だとされる」。
民主主義の前提が理不尽にも根こそぎ葬られかねない危機的な状況に直面している今、一人でも多くの人に読んでもらいたい一冊です。