製薬企業の成長持続に必要なこと、必要でないこと・・・【リーダーのための読書論(23)】
『ヤンセンファーマ 驚異のビジョン経営――持続する成長を生み出す科学的マネジメントの「型」とは』(関口康著、東洋経済新報社)は、文字どおり驚異的な本である。ヤンセンファーマが業界平均を大きく上回る急成長を何年も続けていた時、その秘密を知りたいと願った。2006年に売上高を落とした時は、さすがのヤンセンファーマも力尽きたのかと懸念した。このように、同社は私の関心の的であったが、今なお成長を持続させ続けている社長・関口康の手に成る本書の登場によって、長年の疑問がすべて氷解したのである。
関口が唱える「ビジョン経営」とは、「良い会社」の実現のために、良い企業風土を育み、日常業務を通して業務改革を推進し、人が成長していくことで会社も持続的に成長していく経営体制を意味している。自分がどのように成長したいのか、どのように会社に貢献したいのかという思いや志を実現するために、今、自分と自分が働く部署は何をしなければならないのかを不断に考える。その結果として、超一流の「良い会社」、持続的に成長する会社が実現できる、というのが関口の揺るがぬ信念なのだ。これは言うは易く、行うは難しである。10年間に亘り自ら実践し、目を瞠るような業績を上げてきたエヴィデンスの前には、何人(なんぴと)といえども頷かざるを得ないだろう。
この業績をもたらした秘密は、MRの生産性の向上にあった。①既に自社製品を多く処方しているドクターではなく、競合品の処方が多いドクターに集中してディテールすること、②MR全員が統一されたメッセージをドクターに伝えること、③データに基づいたコーチングを上司と部下で徹底的に行うこと(Plan・Do・Seeの社内各層での徹底)――という改革実現が売り上げ倍増に結びついたのである。
『私がマツモトキヨシです。』(松本かづな著、サンマーク出版。出版元品切れ)も、医薬品業界に身を置く者にとって必読の書である。ドラッグストア、マツモトキヨシの創業者であり、千葉県の松戸市役所に「すぐやる課」(市民からの苦情を直ちに片づける部署)をつくるなどアイディア市長としても知られた松本清は、常識に捉われない型破りな人物であった。
松本清語録から興味深いものをピックアップしてみよう。「市役所とは、市民のために役立つ人のいる所」、「何をやったかではない。今から何をやるかだ」、「貧乏人は安いものが好きだ。そして、金持ちは貧乏人より更に安いものが好きだ。だから、金持ちになったんだ」、「目立つ処に金を使え。女はお尻に化粧はしない」、「くり返しは信用なり、同じことを何回でも言え」、「人の褌で相撲をとれ。自分の褌なら誰でもとれる」と、実にユニークである。
この本は、松本清の長男・和那(かづな)によって書かれているが、「リーダーというものは、勇気がなければ務まらない。どんな苦境に立たされても、決して逃げてはいけない。見果てぬ夢に向かってどんな困難にも立ち向かい、自分のあとについてくる者に対して、責任を負わなければならないからだ」という述懐には胸を打たれる。
『すぐやる課をつくった男――マツモトキヨシ伝』(樹林ゆう子著、小学館。出版元品切れ)では、「すぐやる課」だけでなく、「ながいき課」「しあわせ課」もつくった男の面目躍如ぶりに触れることができる。
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