榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

古典を読むと、本当に頭にアンテナが立つのか・・・【MRのための読書論(127)】

【ミクスOnline 2016年7月15日号】 MRのための読書論(127)

ビジネス書か古典か

ブレない自分をつくる「古典」読書術』(小倉広・人間塾著、日刊工業新聞社)は、ビジネス書を10冊読む時間があるなら、古典を1冊読むことを勧めている。

古典を読むと、どういう変化が起こるのだろうか。「一言で言うならば『ブレない自分をつくる』ことができるのです。自分の中に確固としたゆるぎない太い芯ができ、悩みや苦しみを前にしても、自分がどう行動すべきか迷わなくなるのです」。古典はありとあらゆる課題に対応可能な体質改善療法だというのである。

古典から得られるものは何か。「ビジネス書では知識や技術といったスキルが得られます。スキルは使う人によって生きもすれば死にもするもの。スキルは人間力という土台があってこそ生かされるものです。人間力という土台がなければ、スキルはゼロどころかマイナスにさえなります。その土台となる人間力を得られるのが古典なのです」。「スキルと人間力の掛け算で、その人の成果は決まると考えます」。「洋の東西を問わず、素晴らしい古典から、生き方、人生、人間力を学ぶ。一生涯学び続ける。これが、私が試行錯誤を繰り返した末に手に入れた答えです」。

アンテナが立つ

古典を読むと、本当にアンテナが立つのか。「古典を読むと、私たちは『アンテナ』を立てることができるようになるからです。アンテナが立つとは、起こった出来事一つひとつの意味づけがしっかりとわかるようになる、ということです。通常であれば何の学びもないと思われる出来事が、アンテナが立つことにより、がぜん意味を持ち始めてくるのです」。「古典を読んでいるからこそ、古典を読みアンテナが立っているからこそ、気づくことができる。いい意味も悪い意味もわかる。そして見たくない自分の弱点も見えるのです。アンテナを立てずに生きていると、人は起きたことすべてを自分の都合のいいように解釈します。自分はできていると勘違いして生きていきます。これを心理学用語で『認知のバイアス』と呼びます。ですから古典を読んで、これまでの自分が持っていたのとは異なる視点というアンテナを立てて一つひとつの出来事から学ぶことが大切であり、その積み重ねが人間として大きな差を生んでいく」。

古典を読む人、読まない人

古典を読む人は、読まない人と何が違うのか。「これまでのコンフォートゾーン(居心地のよい自分が慣れ親しんだ場所)とは違う角度、古典から得た視点、視座から経験に光をあてることで、より建設的で解決志向の前向きな結論を引き出し、自らを奮い立たせることでしょう。体験を体験と見ても、そこにある本質はなかなか見えてこない。しかし古典での学びという光をあてることにより、その体験の核心のようなものがあぶり出される。そのあぶり出されたものをシェアすることで、さらに互いに学びを深めていくことができるのです」。

生きるのが楽になる

古典に学ぶと、なぜ生きるのが楽になるのか。「幸福とは主観的なものです。お金があるから幸福なのではない。名誉があるから幸福なのではない。お金も名誉もありながら、まったく幸福ではない人も世界中にごまんといます。そして同様に、お金も名誉もなくても、幸福な人もまた世界中にたくさんいるのです。つまり、一言で言うならば、古典を読むことで、生きることが楽になり、幸せを感じることができるようになった、ということです」。

巻末に、「おさえておくべき古典一覧」として56冊が紹介されている。早速、このうちの3冊を、私の「読むべき本リスト」に加えた。

何十年、何百年、何千年という長い期間、風雪や試練に耐えてきた古典は、生き延びてきただけの理由と価値を有している。確率論から言っても、そういう古典を読み、学んだことを実践することは、人間力を向上させ、人生を充実させる可能性が高い。それでも君は、頑迷に、古典を読まずに生きていくのか。