小説+挿画・写真のコラボレーションが生み出す異世界のアンソロジー・・・【情熱的読書人間のないしょ話(589)】
散策中に、鮮やかな桃色の実を付けているマユミを見つけました。アメリカセンダンソウが黄色い花と刺の塊のような実を付けています。あちこちで、コリウスがさまざまな模様の葉を競い合っています。因みに、本日の歩数は10,131でした。
閑話休題、『小説の家』(福永信編、新潮社)という本には、びっくりさせられました。小説と、挿画や写真などのアートワークのコラボレーションという意欲的な企画のアンソロジーです。収録されている12作品はいずれも斬新なのですが、阿部和重著の「THIEVES IN THE TEMPLE」に至っては、極度に薄いインクで白地に印字されているため、光にかざして角度を調整するとやっと判読できるという、前代未聞の代物です。
私の印象に残ったのは、岡田利規著の「女優の魂」です。30を間近に控えた舞台女優の「私」は、私に重要な役を奪われたと思い込んだMに絞殺されてしまったのです。「自分がある言葉を言ったということのその効果を、または、自分が動いてみせたことのその効果を、問題にすることができているとしたら、それはきっといいパフォーマンスです。そのように遂行されたパフォーマンスは、空間を変化させること、あわよくば時間を伸縮させることができる。少なくとも、その可能性を持っている。そして、こうした絶対的な成否の基準にもとづいた成功に、自分が行うパフォーマンスを導こうとすること。実際に成功に導いてみせること、これはけっこう難しいのです。誰にでもできることじゃありません。役者とかダンサーとか、そういう人でなければ、それはできないことです。まぐれで成功させることならば、素人だってできます」。「私」は女優という仕事に誇りを持っていたのです。
「さて、私が不案内な死後の世界をさまよっておりますと、やがて人々がある流れを持って一方向に歩いている、という感じになったので、私もそれに従って進んで行きました。やがて、『新規登録の方はこちらです』とみなに声をかけている人が見えました」。この窓口で、名前や生年月日、没年月日、死因などを記入していくのですが、職業欄の後に「継続希望する/しない」という選択肢があるではありませんか。「私は、希望する、を丸で囲みました。死んでしまったら肉体が滅びる。そしたらもう女優はできない。だって女優は肉体労働だから、と論理的に思い込んでいたふしがあった私ですが、どうやらそんなことはないようです。とにかくこれは、とても嬉しい! 私はまだ女優を続けられるのですから!」。
かなりの時間、異世界を彷徨った私が現実に引き戻されたのは、最後のページを閉じた時でした。