これまで出会うことのなかった作家との橋渡しをしてくれる一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(686)】
散策中に、桃色の花をたくさん付けたアケボノアセビを見かけました。フサアカシア(ミモザ)が黄色い花を咲かせています。満開のジンチョウゲの芳香が鼻を擽ります。ウメ、ツバキも頑張っています。因みに、本日の歩数は10,464でした。
閑話休題、『物語の向こうに時代が見える』(川本三郎著、春秋社)を読んで、今まで一度も読んだことのない作家への興味が湧いてきました。
その一人は、車谷長吉です。その『赤目四十八瀧心中未遂』は、このように評されています。「落ちるところまで落ちてやるというふてぶてしい堕落の思いである。投げやりで落ちてゆくのではない。自覚的に、明晰なまま下降してゆく。不敵である」。「(作中の)『私』の求道的とも言えるストイックな無償の行為と、車谷長吉のどん底のなかから言葉をつかみとろうとする捨て身の意志が重なり合う。それこそが私小説なのだ」。「そんなときに車谷長吉は、あえて吹きだまりの町のどん底へと降りてゆく」。「悲痛哀切な恋愛小説でもある。『私』は、同じアパートに住む『朝鮮』の、絶世の美人『アヤちゃん』に心惹かれる。彼女の肉体を見ると『腐れ金玉が歌を歌い出す』。刺青の彫師の目を盗んで『まぐわう』。「掃き溜めに生きる女の捨て身の強さであり、ぎりぎりの優しさである」。
もう一人は、桜木紫乃です。川本は桜木の作品を初めて読んだ時の新鮮な驚き、強い感動を告白しています。本書では桜木の多くの作品が取り上げられていますが、先ず連作短篇集『ホテルローヤル』を読んでみようと考えています。「『ホテルローヤル』は、北海道の釧路湿原を見下す高台の上にある、ローヤルという部屋数6つの小さなラブホテルを舞台にしている。物語の中心にラブホテルを置いた小説は珍しい。誰もがよく知っていながら遠ざけていた場所を描く。社会の隅にいる人間たちを描き続けてきた桜木紫乃ならではだろう。表通りではなく裏通りにひっそりと建つラブホテルのなかにこそ身近な人間たちの切ない物語を見つけてゆく。太陽の下の明るさより、ホテルの部屋の暗がりのなかに人々の悲しみを見出してゆく。ラブホテルは言うまでもなく男女がセックスをするための場所。・・・そこでは男も女も、ホンネの姿をさらけだす。だからいっときの昂揚が過ぎ去ったあとには、急に心が冷めたりする。桜木紫乃は、セックスそのものの熱さよりも、むしろセックスのあとの白々しさをとらえようとしている。いったんはひとつになった男女が、ことが終わると、また離れ離れになってゆく。その虚しさ、寂しさ」。
これまで出会うことのなかった作家との橋渡しをしてくれる、嬉しい一冊です。