フェアであれという信条を貫き通した勇気あるキャスター、国谷裕子・・・【情熱的読書人間のないしょ話(692)】
小学2年生に対する読み聞かせヴォランティアで、『もりのなか』を読みました。終了間際に生徒全員の感謝状を手渡されました。今日が今年度最後の読み聞かせだからです。「わたしは、いっすんぼうしという本がきにいりました。すごくおもしろかったです。おかげで本がすきになりました。ありがとうございます――○○かなみ」など、前回、読んだ『いっすんぼうし』のことが書かれていて、感激しました。ナノハナ(セイヨウアブラナ)、ハクモクレンが咲き始めています。因みに、本日の歩数は11,966でした。
閑話休題、『キャスターという仕事』(国谷裕子著、岩波新書)を読んで、国谷裕子をますます好きになりました。彼女の課題を的確に捉えた上での使命感、責任感、勇気、自らを律する姿勢に共感を覚えるからです。
彼女の明確な目的意識は、ベトナム戦争を厳しく批判したアメリカの著名なジャーナリスト、デイヴィッド・ハルバースタムの「時に、たった一人の記者でも、政府だけが善悪を判断する唯一の審判ではないことを示すことができる」という言葉に学んだものです。偏見を取り除くために、より深く考えることの重要性を自覚しているのです。「今から23年前の4月に放送を開始した<クローズアップ現代>はまさに、ハルバースタムのこの問いかけをどう乗り越えるか試されていくことになった、と私には思える」。
具体的には、是枝裕和の言う、「わかりにくいことを、わかりやすくするのではなく、わかりやすいと思われていることの背景に潜むわかりにくさを描くことの先に知は芽生える」を、自分の役割と思い定めています。「これこそ、<クローズアップ現代>が目指し、そして私自身がキャスターとして目指し実践してこようとしてきたことではないだろうか。是枝さんの文章に触れたとき、私は即座にそう思った」。
「シンプルでわかりやすい表現を使用することで視聴者の情緒に寄り添い、視聴者の『感情の共同体』に同化してしまうことの危険性。メディア、とくにテレビはこの危険に陥りやすい。だからこそ、たとえ反発はあっても、きちんと問いを出すこと、問いを出し続けることが大事だ。単純化、一体化してしまうことのないよう、多様性の視点、異質性の視点を踏まえた問いかけが重要なのだ。問いを出し続けることで、『視聴者に、感情の共有化、一体化を促す』危うさと『視聴者の情緒や、人々の風向きにテレビの側が寄り添ってしまう』危うさから免れたいと私は思ってきた」。
「私は、インタビューにおいても、番組への関わり方においても、フェアであることを信条としてきた。それは、視聴者に対してフェアであること、また視聴者から見てもフェアであること。具体的には、わかりやすくするために、ある点を強調するために、ある部分を隠すとか、触れないとかはしない。知りえたことは隠さない。視聴者には判断材料はすべて示す。そのうえで、視聴者が同じように怒り、共感してくれることを期待する。真正面から向き合っているか。後ろめたさを少しでも抱えたまま番組を制作してはいないか」。
2015年末に突然、NHKから降板を言い渡された経緯、その原因になったと思われる籾井勝人NHK会長、菅義偉官房長官とのいきさつにも、きちんと言及しています。
国谷の勇気ある行動に乾杯!