ヒトデなどの棘皮動物の戦略は「中央集権」ではなく、「地方分権」・・・【情熱的読書人間のないしょ話(779)】
フェイジョアが、花弁の内側は薄紫色で、外側は白く、多数の長い雄蕊が美しい花を咲かせています。ギンバイカが、雄蕊が目立つ白い花と実を付けています。テイカカズラの白い花が甘い香りを漂わせています。ナンテンが白い花を、カンパニュラ・メディウムが釣り鐘状の白い花を咲かせています。因みに、本日の歩数は10,709でした。
閑話休題、『ウニはすごい バッタもすごい――デザインの生物学』(本川達雄著、中公新書)は、ベストセラーになった『ゾウの時間 ネズミの時間――サイズの生物学』(本川達雄著、中公新書)ほど衝撃的ではありませんが、生物好きには興味深い一冊です。
進化の過程で、姿を変え、武器を身に付けた刺胞動物門、節足動物門、軟体動物門、棘皮動物門、脊索動物門の生物たちの巧みな生存戦略に迫っています。「(動物の)門が34もあるということは、体のつくりの異なった動物たちがそれだけいることを示している。体のつくりには、住んでいる環境、生き方、その動物の歴史などが反映されている。体のつくりの異なる動物たちは、生きていくそれぞれの場面で、どうふるまえばいいのかも、何を求めるのがいいのかも異なっているだろう。求めるものが違うとは、価値ありとするものが、動物により違うということ。価値観が違う。そして住んでいる環境も違うとすれば、異なる動物それぞれは他と異なる独自の世界をもっていると言えるのではないか。それらさまざまな動物のもつ世界を読み解くのが動物学者の仕事だと信じ、40年近く彼らと付き合ってきた」。「価値観が違う」とは、いかにも本川らしい表現です。
節足動物門の昆虫が大繁栄している理由は、このように説明されています。「このように特定の昆虫に蜜を与えるように花が進化し、その花から効率よく蜜を集められるように昆虫の方が進化しと、共に進化しあうこと(共進化)により、被子植物も昆虫も、種の多様性が高まっていった。動物の種の7割以上が昆虫、全光合成生物の約7割が被子植物。最も種の数が多いものの双璧が昆虫と被子植物なのであり、このものすごい多様性は、両者の共進化により生じたものである」。
棘皮動物門のヒトデが星形をしている理由が追究されています。「棘皮動物を一目見て気づくユニークな点は星形をしているところ。動物といえば、ほとんどが左右相称の細長い体をもっている。・・・よく動く動物のもつ細長い体は、一方向(=進む方向)に特別に配慮した形である。それに対して、放射状の形は環境に均等に向き合うよう配慮したものである。・・・棘皮動物の場合、ただ放射状というだけではなく5放射相称である。5回の回転対称、つまり中心軸のまわりに72度(360°÷5=72°)回転させるとまったく同じになる形。なぜ5なのだろうか。いくつかの仮説が提出されてきた」。滑走路仮説とサッカーボール仮説が紹介されています。
「さかんに動く動物と、まったく動かない動物との間で、ちょっとだけ動く生活をしているのが棘皮動物である。ちょっとだけ動ければ、どちらの動物も手に入れることができなかった餌を独占できる。いわば『隙間産業』で身を立てているのが棘皮動物。他と競い合うことなく、平和裏に天国の暮らしを実現してしまったのが彼らであり、それも『小さな骨片がキャッチ結合組織でつづり合わされた』類い希な支持系を開発したおかげだった」。
「棘皮動物には脳がない。だから脳死はない。心臓や血管系がなく、肺がなく、眼ももたない。・・・棘皮動物には中心になる器官が存在しないのである。摂餌・運動・呼吸・排泄・感覚と、棘皮動物の主要な機能を兼ね備えている万能の器官が管足であるが、これは体の表面に散在しており、整然として統一のとれた行動をとるわけではない。・・・運動指向型の動物の場合、スピーディに動き回るためには、すばやい判断と体全体の筋肉の統制のとれた動き、そして筋肉と脳への酸素と栄養のすみやかな供給とが欠かせないため、どうしても『中央集権的』な体になる。運動指向型動物は、環境に対してその時々に、『本人の意志やすばやい判断によって』立ち向かっていくものであり、そういうものは中央集権的な体制をとる。それに対して動かない生物は、いったん場所を定めた後は、いわば環境のなすがまま。ウミユリのように、基盤に固着して流れが食物を運んできてくれるものでは、食物の粒子の含まれている流れが体に当たったら、当たったその部分の管足を活性化すればいいのであり、体の各部が局所的に判断するだけで生活が成り立っていく」。棘皮動物は中央集権ではなく、地方分権という戦略を採用しているというのです。