榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

藤沢周平の俳句、そして、小林一茶の3人の妻・・・【情熱的読書人間のないしょ話(949)】

【amazon 『藤沢周平句集』 カスマーレビュー 2017年11月25日】 情熱的読書人間のないしょ話((949)

東京・新宿の新宿御苑の池にオシドリが現れたとの情報を入手したので、9:00の開門を待って、日本庭園の池に駆けつけました。残念ながら今日は見られないのかと諦めかけた瞬間、双眼鏡に20羽ほどのオシドリが入ってきました。思い切り派手な雄とは異なり、雌は地味です。新宿御苑は秋真っ盛りで、紅葉、黄葉を堪能することができました。因みに、本日の歩数は25,938でした。

閑話休題、味わい深い小説を書く藤沢周平がどういう俳句を詠むのか気になって、『藤沢周平句集』(藤沢周平著、文春文庫)を手にしました。

「雪女去りししじまの村いくつ」と「眠らざる鬼一匹よ冬銀河」の句が印象に残りました。

本書には、随筆9篇も収録されています。

「小説『一茶』の背景」に、こういう一節があり、藤沢の俳句に対する姿勢が窺われます。「芭蕉には、まだどこか模糊としたところがあって、明確な顔が浮かんでこない。蕪村は明快だが、明快にすぎて人間的な体臭が稀薄なように思われる。そこへいくと一茶は、と私は言った。一茶は2万の句を吐いた俳人である一方で、弟から財産を半分むしりとった人間ですからな、小説的な人間です。・・・一茶ほど人間くさい俳人はいません。それにくらべると、芭蕉には韜晦があるし、蕪村には気どり、と言って言い過ぎなら、何と人間のあいだに距離があります」。

「一茶とその妻たち」には、一茶の人間臭さが横溢しています。「一茶にとって、52になってはじめて手にした結婚生活は、珠玉のような人並みの世界に思われたに違いない。新婦の菊はこのとき28歳で初婚だった。一茶の七番日記を眺めて行くと、菊はよく働く女性だったことが窺われる一方、・・・少少わがままで気の強いところもあった女性のように思われる。だが一茶が、その若い妻をこよなくいつくしんだらしいことは、日記に妻がどうした、キクがどうしたといちいち妻の動静を記し、また一緒に月見をしたとか、栗拾いに行ったとか書き記していることでもわかる。・・・そしてあの有名にして奇妙な『菊女帰 夜五交合』とか『婦夫月見 三交』、『墓詣 夜三交』といった記載が日記に出て来るのである。一茶はその以前にも『夜雪 交合』などと記したことはあったが、性交の回数を示すと思われる数字まで記したのは、今度がはじめてである」。「交合の記録も、書きとめずにいられない一茶の至福感を見るようで、さほどの違和感は感じられないのである」。

「しかし、一茶のしあわせな結婚生活は、そう長くはつづかなかった。菊との結婚から数えて10年目の文政6年、一茶はその10年の間にもうけた4人の子供と妻の菊、そのことごとくを病気で失って再び孤独の境涯にもどる。幸福な家庭は、まぼろしのように消え去って、61歳の一茶だけが残されたのである」。

亡妻の一周忌が済んだところで、雪と再婚しますが、うまくいかず、僅か2カ月ほどで雪は実家に戻ってしまいます。

それから2年後、64歳の一茶は3人目の妻「やを」と所帯を持ちます。「奇蹟と言いたくなるのは、やをは翌年の柏原の大火のときも半身不随の一茶をかばって無事逃げのび、その年の暮れに一茶が死んだときには、一茶の子供を身籠っていたからである。子供を1人連れ子して、中風老人に嫁いで来た32歳の越後女やをは、老醜の一茶をいやがらずに面倒みたようである。・・・やをにめぐりあったのは、晩年の一茶のしあわせだったと言えよう」。

こういう随筆に巡り合えたのは、私の幸せと言えるでしょう。