負け犬たちが世界最高のブランドを創り上げるまでの波瀾万丈物語・・・【MRのための読書論(144)】
フィル・ナイト
『SHOE DOG――靴にすべてを。』(フィル・ナイト著、大田黒奉之訳、東洋経済新報社)を読み終わった時、この著者、フィル・ナイトと一緒に仕事をしたかったな、と強く感じた。
ランニングのアスリート、24歳のナイトは、日本製の靴に魅力を感じ、オニツカ(現・アシックス)のアメリカにおける一販売代理店としてスタートを切る。社名なし、社員なし、社屋なしという、ないない尽くしの状態で。
そういう彼が、目標を高く掲げることによって、仲間に恵まれ、チャンスを物にして、会社をぐんぐん成長させていく。そして、遂に、彼の会社・ナイキを、業界の巨人・アディダスに追いつき、そして、大きく引き離すレヴェルまで育て上げてしまう。
波瀾万丈
もちろん、その過程は決して平坦なものではなく、これでもかと言うほど波瀾万丈に富んでいる。次々と押し寄せる苦難・難問を乗り越え、そのたびに実力を付けていく発展段階を、自分もチームの一員になったような気分で楽しむ――こういう期待を裏切らない稀有な一冊だ。
勝つビジネス
それに止まらず、ビジネスで成功するための要素を本書から抽出し、己のビジネスに生かすという読書法も可能である。
「ドイツの一会社が数十年にわたって市場を支配し、外部に有無を言わさぬほど傲慢になってしまったのだ。もちろんそこまで傲慢とは言えなかったのかもしれないし、私が自分を駆り立てるために彼らを勝手にモンスター扱いしていたのかもしれない。いずれにせよ、私はアディダスを軽蔑していた。毎日顔を上げてはるか彼方のアディダスに思いを馳せていたのだが、そうすることにもうんざりしていた。こうしてはいられない、早く追いつかねば」。
「ブルーリボン(ナイキの前身)は火の車だということも打ち明け、こう続けた。いつかすべて失くすかもしれないけれど、他に何ができるか今でもわからない。小さな靴会社だけど、生きて呼吸しているんだ。自分はこれをゼロから作り、生きて呼吸させ、病気から快復させ、死の淵から何度か再生させたんだ。この会社を何とか自力でしっかりと立たせて世界に送り出したいんだ」。
「そうだ、自信だ。純資産や流動資産よりも、人に必要なのは自信なのだ」。
「シュードッグとは靴の製造、販売、購入、デザインなどすべてに身を捧げる人間のことだ。靴の商売に長く関わり懸命に身を捧げ、靴以外のことは何も考えず何も話さない。そんな人間同士が、互いにそう呼び合っている。熱中の域を越し、病的と言えるほどインソール、アウターソール、ライニング、ウェルト、リベット、バンプのことばかり考えている人たちだ」。
「僕たちは厳しい戦いを続けている。来る日も来る日も、僕たちは味方を増やし、敵を駆逐するためにあらゆることをやっている。勝つために、生き残るために、他のすべてを犠牲にして、後回しにしている」。
「いくつかの目を見張るような新製品、みんなが絶対に欲しくなるような製品を発表すると、私の交渉は俄然、優位になった」。
「このシューズ(ワッフルトレーナー)が市場で大当たりし、あちこちで売れ、私たちはオニツカやプーマさえもしのぐ勢いだった。これらの大ヒットのおかげで、私たちは初めてアディダスの売れ行きに迫りつつあることを実感した」。
「仲間。彼はこの言葉の意味をわかっていた。私たちは会社の横暴に我慢がならず、仕事をスポーツとして考えるタイプの人間だ。軽くスポーツと言ったが、その意味は深い。・・・僕たちはブランドはもちろん、カルチャーをも作り出そうと頑張っていると伝えた。画一的なものや、退屈や、単純労働を相手に戦っているんだ。製品以上に、僕たちが売りたいのはアイディア、精神なんだ」。
「(当社の)面々は根っからの負け犬で、彼らも私をそう見なしている。だが、そんな連中でも、力を合わせれば勝つことができるのだ」。
「勝つことは、私や私の会社を支えるという意味を超えるものになっていた。私たちはすべての偉大なビジネスと同様に、創造し、貢献したいと考え、あえてそれを声高に宣言した。何かを作り改善し、何かを伝え、新しいものやサービスを、人々の生活に届けたい。人々により良い幸福、健康、安全、改善をもたらしたい。そのすべてを断固とした態度で効率よく、スマートに行いたい。滅多に達成し得ない理想ではあるが、これを成し遂げる方法は、人間という壮大なドラマの中に身を投じることだ。単に生きるだけでなく、他人がより充実した人生を送る手助けをするのだ」。
私のシューズ
私は、毎日10,000歩以上、歩いている関係で、ウォーキング・シューズの痛みが早く、買い替えを短期間で迫られる。以前はアディダス、現在はアシックスを履いているが、次はナイキにしようと密かに決めている。
戻る | 「MRのための読書論」一覧 | トップページ