漁師が腹を裂いて取り出した巨大な鮟鱇の肝が、何と艶やかな美女に変身・・・【情熱的読書人間のないしょ話(981)】
寒さを衝いて散策したら、いろいろな景色に出会えました。サンシュユが花芽をたくさん付けています。因みに、本日の歩数は10,209でした。
閑話休題、泉鏡花にこのような作品があるとは知りませんでしたが、『絵草紙 月夜遊女』(泉鏡花著、山村浩二絵、アダム・カバット校註、平凡社)は、鏡花特有の夢幻世界そのものでした。添えられた山村浩二の絵が、妖しさを弥(いや)増しています。
ある月夜、漁師の音吉は、問屋に売り物の魚を届けにいく途中で、担いでいる巨大な鮟鱇の肝を食べてしまおうという良からぬ考えを起こし、大きく膨らんだ腹を裂き、肝を取り出してしまいます。
ところが、取り出した鮟鱇の肝は、なぜか、婀娜っぽい美女に変身してしまうのです。そして、彼女は別荘で暮らす老政治家の主公様(とのさま)の寵を受け、お部屋様、お蘭の方と呼ばれるようになります。
「薄色衣(ぎぬ)の腰細う、頸(うなじ)、耳許、頬のあたり真白に俤(おもかげ)に立ったる美女(たおやめ)。撫肩のありや、なしや。袖を両脇に掻垂れたが、その時、ほろほろと衣紋が解けて、雪の乳房の漏れたと見ゆる、胸のあたりで美しい、つつましげな両の手首を開くと、鳩尾(みずおち)かけて姿を斜めに、裳(もすそ)を寛(ゆる)くはらりと捌いた、褄(つま)をこぼれて、袂にからんで、月にも燃ゆる緋縮緬」。
「時々蜜(そっ)と窃むようにして、横目でちらりと見る度に、唯慄気々々(ぞくぞく)と足まで染みるのは、その妖艶(あでやか)さよ」。
「幸い、お部屋様がお気に入って、片時も傍さお放しなさらねえ工合(ぐあい)だで、下々此方人等(こちとら)まで大助かり。それに行渡りはよし、気はつくの、高ぶらずよ、優しいわ。抜かりなく、粋に行届いて、しかもお前(めえ)、
おっとりとしていなさるだ。蔭じゃ皆、はい、お蘭の方様で拝んでいるわけだでな。始終(しょっちゅう)附添っていさっしゃら」。
ところが、ところが、この後、思いもかけない、恐ろしい物語が展開されていくのです。