榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

一度しかない人生なのだから、ささやかでも意義あるものにしよう・・・【情熱的読書人間のないしょ話(999)】

【amazon DVD『生きる』 カスタマーレビュー 2018年1月17日】 情熱的読書人間のないしょ話(999)

東京・文京の東京ドームで開催中の「ふるさと祭り東京――日本のまつり・故郷の味」は、食いしん坊たちで賑わっています。因みに、本日の歩数は10,240でした。

閑話休題、モノクロ映画『生きる』(DVD『生きる』<黒澤明監督、志村喬、小田切みき出演、東宝>)を久しぶりに見直したが、これまでとはいささか異なる印象を受けました。

胃がんに冒され、自分の死が近いと悟った市役所の市民課長・渡辺が、残された僅かな人生をどう生きるか悩んだ末、市民たちから陳情されながら、各課をたらい回しにされている小さな公園建設を実現しようと奮闘する物語です。

30年間、実直だが平々凡々と役人生活を送ってきた渡辺ですが、役所内の無理解・反対と粘り強く渡り合い、遂に公園完成に漕ぎ着けます。そして、雪の降る夜、渡辺が独り、完成したばかりの公園のブランコに乗り、「命短し、恋せよ乙女、・・・」と歌うシーンは、胸に迫ります。翌朝、凍死しているのが発見されます。

渡辺の消極的な過去と、目標実現に邁進する現在の姿の対比、市民そっちのけで上役への胡麻すりに余年のない役人たちと、市民の要望に応えるべく、上役に必死に食い下がる渡辺の対比、渡辺から食事に付き合わされる、市民課の事務員を辞めたばかりの、貧しいが気のいい健康な若い女性と、死期が迫りつつある渡辺の対比――という、極度に無駄を省いた様式美が、強く印象に残りました。

一度しかない人生なのだから、ささやかでも意義あるものにしよう、そのことに気づくのに遅過ぎるということはないと、黒澤明は私たちに伝えたいのでしょう。