著名人を物に譬えるなら・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1052)】
あちこちで、ウメ、シダレウメが咲き競っています。モクレンの蕾が大きく膨らみ、紫色の花がちょっぴり顔を覗かせています。因みに、本日の歩数は10878でした。
閑話休題、高峰秀子は清少納言と肩を並べる随筆の名手だ――これは私の揺るがぬ確信です。例えば、『にんげん蚤の市』(高峰秀子著、河出文庫)に収録されている「人間鑑定図」を見てみましょう。
著者は陶磁器好きが昂じて、小さな古美術店を4年間、経営した経験があり、せっせとせり市に通い続けます。ある日のこと、「そのお歯黒壺は珍しく小型でコロリと丸く、生意気に一丁前の貫禄、品格もそなえている。その壺を見たとき、私はなぜか、『あ、少年時代の小津安二郎だ』と思った。なぜ、少年時代なのか私にもわからないが、とにかくそう感じたのだからしかたがない。・・・少年時代の小津安二郎に出会ってから、今度は逆に、人間を物に見たてる、というおかしなクセがついた。ざっと書き並べると、こんな工合になる。志賀直哉 青磁(南宋)、梅原龍三郎 大明万暦赤絵、川口松太郎 古染付、司馬遼太郎 李朝白磁、松本清張 船箪笥、成瀬巳喜男 黄瀬戸、市川 崑 織部焼、仲代達矢 大名時計、笠 智衆 埴輪、幸田 文 花唐草、杉村春子 染錦、水谷八重子 色鍋島、森 光子 タコ唐草、美空ひばり 益子焼、越路吹雪 ボヘミアングラス、泡沫タレント ベロ藍、高峰秀子 むぎわら手」。
著者が古美術店の助っ人になってもらったのは、「当時、西麻布で茶道具店を構えていた青年店主のセイちゃんだった。昭和十三年生れ、江戸っ子のチャキチャキで、とつぜん捕鯨船に乗りこんだり、折角修業した養子先きの名門茶道具店を飛び出して鑑賞陶器にのめりこんだり、と、かなりの変り種だけれど、人間がまっすぐで、目筋がよくて、キリキリシャンと明快で、適当にオッチョコチョイなところが私向きである。会えばお互いにべらんめえ口調でわたりあい、セイちゃんと呼び、アネさんと呼ばれる間柄だから話は早い」。
このセイちゃんが中島誠之助(南青山・美術商からくさ店主)だと明かされますが、この随筆の締めが素晴らしいのです。「『掘りだしもの』は、やはり触れて冷めたい古物よりも『人間』のほうがよろしい。若き日の、セイちゃんこと、中島誠之助を掘りだした私の目筋も、まんざら捨てたものではなかった、と、ひとりでニンマリしている」。