山間部の中学への転校生に降りかかった、信じられない凄惨な出来事・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1205)】
【amazon 『送り火』 カスタマーレビュー 2018年8月11日】
情熱的読書人間のないしょ話(1205)
空飛ぶ子ブタのかわいらしさ。実ったナスの瑞々しさ。
閑話休題、『送り火』(高橋弘希著、文藝春秋)には、理不尽な虐め、不条理な暴力が充満していて、この作品で著者はいったい何を言いたいのかと読者を混乱させることに見事に成功しています。
父親の転勤で東京から津軽の山間部の中学校に転校してきた3年生の歩(あゆむ)は、徐々に新しい環境――長閑な田園風景や穏やかな日常生活に馴染んでいきます。
この中学校は、3年生は、歩を含めて男子は6名、女子は6名しかおらず、来春には廃校になることが決まっています。男子は、学校でも学校外でも常に6名で行動を共にしており、歩は、リーダーの晃が気の弱い稔を事ある毎に虐めの標的としていることに気づきます。しかし、中学を卒業したら埼玉の高校に進学しようと考えている歩は、眉は顰めても、何らかの行動を起こすには至りません。「面倒はご免だ。自分は残り少ない中学生活を平穏に過ごし、何事もなくこの土地から離れていきたい。高校に入学して半年もすれば、どうせ彼らも(自分のような)渡り鳥のことなど忘れてしまうのだ」。
歩のこういう姿勢が伏線となって、物語の最後の最後になって、信じられない意外な事が起こり、あまりの凄惨さに息を呑むことになります。
この著者の作品は初めて手にしたが、これから先、高橋弘希は目の離せない作家となりました。