生物進化における「性」と「死」という偉大な発明・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1511)】
スジコガネをバラの花の上で見つけました。ツヤマルガタゴミムシが地面を這い回っています。実を付けたカキの葉の裏にブドウスカシクロバが止まっています。ウメの実はいい香りがします。ネギ、ミョウガ、フキ、イネが育っています。スカシユリが朱色の花を、ホタルブクロが白い花を咲かせています。カラーの白い仏炎苞、スパティフラムの白い仏炎苞が目を惹きます。我が家のガクアジサイの装飾花(萼)が桃色になってきました。因みに、本日の歩数は10,782でした。
閑話休題、『敗者の生命史38億年』(稲垣栄洋著、PHPエディターズ・グループ)では、38億年前から400万年前に至る生命史が扱われているが、「結局、敗者が生き残る」というシンプルな考え方に貫かれています。
とりわけ興味深いのは、「性」と「死」には密接な関係があるという指摘と、哺乳類が世界を支配できた意外な理由です。
「自分にないものを求めて遺伝子を交換するのだから、せっかく手間を掛けて交換しても自分と同じような相手と遺伝子を交換したのではメリットが少ない。・・・やたらと他の個体と交わるよりも、グループを作って、異なるグループと交わるようにすれば効率が良いのである。ゾウリムシは、2つの個体が接合して、遺伝子を交換するが、ゾウリムシには、いくつかの遺伝子の異なるグループがあり、その間でだけ接合して遺伝子を交換することが知られている。オスとメスという2つのグループも、同じ仕組みである。オスとメスというグループを作ることによって、より遺伝子の交換が効率的になるのである。オスとメスというグループ分けは、こうして作られたのである。世の中には男と女がいて、生物にはオスとメスがいる。当たり前のように思えるかも知れないが、これは生物が進化の過程で獲得した優れたシステムである」。
「自分の遺伝子を残すという目的から考えれば、他の個体と交わることは、けっして得な方法とは言えない。それなのに、多くの生物はオスとメスとが交わって子孫を残している。ということは、残せる遺伝子が半分になってしまっても、利点があるはずなのである。他の個体と遺伝子を交換することの利点の1つは、『多様性』を生みだすことができる点にある。自分の遺伝子を100パーセント引き継いだ子孫を作ったとしても、その子孫が環境の変化を克服できずに滅んでしまえば、何も残せなかったことになる。それよりも、性質の異なるさまざまな個体を残しておけば、どれかは生き残る。自分の遺伝子を半分しか引き継がない子孫だとしても、まったく残せないことに比べれば、はるかに得がある。そのために生物の進化はオスとメスとを作りだした。そして、その進化の果てにいる私たちは男と女の仲に悩まなければならないのである」。
「生物の進化における『性』の発明は、もう一つ偉大な発明を行った。それが『死』である。『死』は、38億年に及ぶ生命の歴史の中で、もっとも偉大な発明の1つだろう。1つの命がコピーをして増えていくだけであれば、環境の変化に対応することができない。さらには、コピーミスによる劣化も起こる。そこで、生物はコピーをするのではなく、一度、壊して、新しく作り直すという方法を選ぶのである。しかし、まったく壊してしまえば、元に戻すことは大変である。そこで生命は2つの情報を合わせて新しいものを作るという方法を作りだした。これが『性』である。・・・ゾウリムシは分裂回数が有限である、そして、700回ほど分裂をすると、寿命が尽きたように死んでしまう。ただし、死ぬまでに他のゾウリムシと接合をして、遺伝子を交換すると、新たなゾウリムシとなって生まれ変わる。すると分裂回数はリセットされて、再び700回の分裂ができるようになるのである。こうして生まれ変わったゾウリムシは、元のゾウリムシと違う個体である。だから、これは新たなゾウリムシを作り上げて、元の個体は死んでしまったと見ることができる。こうして、真核生物は『死』と『再生』という仕組みを創りだしたのである」。
「遺伝子を交換することで新しいものを作り出す。そして、新しいものができたのだから、古いものをなくしていく。それが『死』である。『死』もまた、生物の進化が生み出した発明である。『死』というシステムは『性』というシステムの発明によって、導き出されたものなのだ。『形あるものは、いつかは滅びる』と言われるように、この世に永遠にあり続けるものはない。何千年、何万年もの間、コピーをし続けるだけでは、永遠の時を生き抜くことは簡単ではない。そこで、生命は永遠であり続けるために、自らを壊し、新しく作り直すことを考えた。つまり、1つの生命は一定期間で死に、その代わりに新しい生命を宿すのである。新しい命を宿し、子孫を残せば、命のバトンを渡して自らは身を引いていく。この『死』の発明によって、生命は世代を超えて命のリレーをつなぎながら、永遠であり続けることが可能になったのである。永遠であり続けるために、生命は『限りある命』を作りだしたのである」。
「恐竜が絶滅し、空いたニッチを哺乳類たちは埋めながら繁栄していった。そして、哺乳類は恐竜に代わり地上の支配者となっていくのである。しかし、である。恐竜が滅んだ直後の地球で影響力を強めていったのは、哺乳類ではなかった。それは哺乳類とともに絶滅の危機を乗り越えた鳥類と爬虫類だったのである。鳥類と爬虫類は、恐竜がいる時代であっても、ある程度の地位を確保していた。鳥類は空を思うがままに支配する空の王者であり、爬虫類はワニに見られるように大型にも進化を遂げた水辺の王者だったのである。これに対して、哺乳類は何の進化もしていない小さなネズミのような存在だった。ニッチを奪われ、ほんの小さなニッチに押し込められていたのである。しかし、これが幸いした。・・・すでに自分の成功の型を持っていた鳥や爬虫類は、その型を崩してまで大きく変化することはできなかった。しかし、哺乳類は何の進化も遂げていない。どんな変化をしても失うもののない『まっさら』な状態だったのである。何かに挑戦するときに、ゼロであることほど強いものはないのかも知れない。何も持っていなかった哺乳類は、さまざまな環境に合わせて自在に変化していったのである」。
軽妙な語り口の本であるが、語られる内容が深いので、知的好奇心を激しく掻き立てられます。