平等と不平等が渦巻く現代こそ、トクヴィルの『デモクラシー』に学べ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1572)】
林は蝉時雨で、数十匹のミンミンゼミが鳴き競っています。因みに、本日の歩数は10,959でした。
閑話休題、『トクヴィル――平等と不平等の理論家』(宇野重規著、講談社学術文庫)を読んで、自らの浅学を恥じました。ビル・クリントンやバラク・オバマなど第二次世界大戦後のアメリカ歴代大統領が例外なく演説にアレクシ・ド・トクヴィル(1805~59年)の著作『アメリカのデモクラシー』(以下、『デモクラシー』と略)からの一節を折り込んでいるというのに、トクヴィルという名を初めて本書によって知ったからです。
フランスの名門貴族の三男であったトクヴィルは、法曹の道に進むが、理由あって職場を離れ、私費でアメリカ視察の旅に出かけます。9カ月の滞在後、フランスに帰国した26歳のトクヴィルが、アメリカ滞在中の経験を基に、3年後に出版したのが『デモクラシー』なのです。同書で、トクヴィルは、デモクラシーこそが歴史を貫く根本的な趨勢と捉え、「平等化」を進展させるデモクラシーを高く評価しています。「かつてカール・マルクスが階級闘争を軸に歴史の展開を読み解き、マックス・ウェーバーが『合理化』という概念を用いて近代という時代を説明したように、トクヴィルは『デモクラシー』によって、歴史の変化を意味づけ、近代社会の特質を描き出している」。
「他方でトクヴィルは、デモクラシーの負の側面から目を逸らすこともなかった。彼が、デモクラシーにも『多数の暴政』や『民主的専制』といった危険性があることを警告したことについて、忘れるわけにはいかない」。
ラディカルな民主主義者であるトクヴィルが『デモクラシー』を通じて訴えたかったことは、何だったのでしょうか。「たしかに自分たちは参照すべき基準のない時代に生きている。しかしながら、そこで思考不能に陥って、いたずらに過去ばかりを見ているわけにはいかない。むしろ参照すべき基準のない時代において、いかに自分たちで自分たちの社会のあり方を見つめ、その未来を決めていくことができるか。そのような使命が『デモクラシー』に課せられているのである」。「平等な自由」を最大の理念にしながら、平等と不平等が渦巻く現代社会だからこそ、我々はトクヴィルの洞察に学ぶべきだと強調する著者・宇野重規の言葉に耳を傾ける必要があるのではないでしょうか。