榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

沖縄返還を巡る密約という国家犯罪を暴いた西山記者の遺書代わりの警告の書・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1670)】

【amazon 『記者と国家』 カスタマーレビュー 2019年11月12日】 情熱的読書人間のないしょ話(1670)

3mほどまで伸びたコウテイダリア(キダチダリア)が薄紫色の花を咲かせています。カキの実が鈴生りです。イチョウの葉が黄色く色づき始めています。今宵は満月ですね。因みに、本日の歩数は11,158でした。

閑話休題、『記者と国家――西山太吉の遺言』(西山太吉著、岩波書店)は、沖縄返還を巡る密約という国家犯罪を暴いた毎日新聞記者・西山太吉、87歳の遺書代わりの警告の書です。本書からは、権力を乱用する政権に対する憤りと、その乱用を監視し報道するという本来の役割を十分には果たせていないメディアに対する歯痒さが伝わってきます。

「沖縄返還協定は、当時佐藤(栄作)内閣がしきりに強調したような『核抜き、本土並み』では決してなく、逆に『核付き、沖縄並み』をもたらし、それが日本の国のかたちを根底から変える転機となった」もので、西山はその擬装と隠蔽を暴いたのです。なお、30年近くが経過した2000年、「沖縄返還交渉に関する米側の全面開示によって、日本側が闇の彼方へ葬り去ろうとした数々の密約の全貌が明らかと」なりました。

「沖縄密約文書についていえば、交渉の早期妥結のため、あえて米側の強硬な要求を呑んで密約を結び、その後漏洩を恐れて、あるいは米側開示の波及を警戒して、関係文書を特別に秘匿し、果ては廃棄してしまったのである。これらの一連の違法行為は、すべて最高裁のこのきわめて抽象的な判決によって、永遠に闇の中に葬られてしまった」のです。

「記者として銘記すべきは沖縄返還とそれをめぐる権力の乱用、そして、それに対するメディア、特に新聞の対応のしかたであった。沖縄返還においては、時の政府権力は西太平洋全域に及ぶ米軍の自由出撃に『イエス』の予約を与えておきながら、それを協定上明記することはなかった。また、『有事核持ち込み』もしかりである。対米支払いに関する財政条項は、すべてが虚偽表示であった。なかんずく、1978年から始まり、今日までにすでに7兆円近くに達している『思いやり予算』の先払いともいうべき、極秘の米軍施設改良・移転工事費(現在の貨幣価値に換算して約4000億円)は、『虚偽表示』ではなく税の『搾取』そのものであり、それだけでも内閣総辞職に値するほどの犯罪行為であった。しかるに、これら一連の恐るべき事実について、日本のメディア、特に新聞は、米国立公文書館が30年近くたって情報公開するまでは、まったく報道することはなかったのである。かくして、権力の乱用は放置された。同時に判明したのは、権力乱用の実態を正確に捕捉することが、いかに困難であるかということである。これら乱用の事実は、厳重な隠蔽装置によって、その漏洩はほぼ完全に阻止される」。

権力の乱用を暴かれた権力側が、記者を機密漏洩教唆で逮捕し、記者のスキャンダルにすり替えるという卑劣な手段に出た経緯が明らかにされています。

メディア関係者、ならびに、ジャーナリズムに関心を持つ者にとって必読の一冊です。