キャリア警察官の野望が白日の下に・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1267)】
和ナシ(日本ナシ)の野生種・ヤマナシが直径2cmほどの小さな実をぎっしりと付けています。キウイの実が鈴生りです。
閑話休題、テレビでは刑事ドラマの類いが盛んに放送されているが、警察機構の最上層部では由々しき事態が進行していると、『特権キャリア警察官――日本を支配する600人の野望』(時任兼作著、講談社)が警鐘を鳴らしています。
キャリア警察官とは、どういう存在でしょうか。「存在感を高めているのが、全国30万人の警察組織の頂点に君臨し、巨大組織を動かす警察キャリアだ。わずか600人程度の選び抜かれた精鋭が、圧倒的な情報力と強制力を兼ね備え、社会をコントロールしている」。
警察の階級は、巡査、巡査部長、警部補、警部、警視、警視正、警視長、警視監、警視総監と9段階あり、その上に、警察庁長官が位置しています。
キャリアとノンキャリアの待遇の隔絶した格差が示されています。「キャリア警察官は、警部補として採用されると、警察大学校での研修や都道府県警察での9か月間の見習い勤務を経験しただけで、1年2か月後には警部に昇進する。その後、約2年間の警察庁勤務を経て、4年目には警視に昇進(今年からは警視昇任を順次延長)、県警の捜査2課長や公安課長などのポストに出向する。・・・一般の警察官すなわちノンキャリアの場合は、巡査からスタートし、最速で昇進したとしても巡査部長になるのは23歳前後。警察に入って1年以上の研修などを受けたうえ、配属されてから大卒で1年、高卒で4年の実務経験を必要とするからだ。そして、その後、大卒の場合は1年、高卒だと3年の実務を経て、警部補試験資格が得られるため、警部補は最短でも25~26歳。以降は、それぞれ数年間の経験を踏めば警部、警視と昇進することも可能だが、大多数は警部補止まりであり、最も昇進しても警視長までである。しかも、警部以降の昇進試験は急激に狭き門となり、仕組みとしては30歳で警部、35歳で警視、45歳で警視正、50歳で警視長というコースもあるものの、そんな警察官はほとんどいない。ごくごくまれに35歳で警視、45歳で警視正となれた者がいたとしても、警視長になるのは60歳の退職間際というのが実際のところである」。
キャリア警察官の出世目標は警察庁長官です。「『出世の階段』が狭く険しいからだろうか、警察キャリアたちは欲望と野望をむき出しに、人事をめぐって暗闘を繰り広げている。捜査への不当な介入、刑事や公安政策の捻じ曲げ、怪文書による情報操作、捜査網・捜査情報の恣意的利用、破壊工作による(ライヴァルの)栄転の阻止・・・。その最たるもののひとつが、中枢キャリアによる捜査介入事案である。警察庁の中村格(いたる)総括審議官のことだ」。フリー・ジャーナリストの伊藤詩織がTBSワシントン支局長Y.N.に薬物を飲まされたうえ、レイプされた事件の逮捕取り止めを命じたのが中村でした。Y.N.が安倍政権中枢と繋がりが深い人物だったからです。
キャリア警察官の最終目標は、警察庁長官、さらに、官僚の頂点である内閣官房副長官のポストに就くことだというのです。「(内閣官房副長官の)絶大な権力を手にしようと、内閣官房の警察キャリアたちは暗闘を繰り広げている」。さらに、驚くべきことが指摘されています。「警察の権限拡大と人員の肥大。そこに官房副長官のポストというものが加わり、それが長期にわたって継続された時、警察官僚たちの悲願とされた内務省の再興が現実味を帯びてくる」。これは著者の慧眼というべきでしょう。
「このままいけば、警察キャリアたちは(政権への)おもねり集団と化し、日本最大の情報機関である、捜査機関の根幹が揺らぐ事態になりかねない。その結果、民主的で平和なこの社会が不正や腐敗、差別や排除のはびこる時代に逆戻りしてしまう恐れもある。主権者たる国民がないがしろにされ、一部の政治家、権力者の意のままに国家運営がなされる社会だ。警察本来の使命、職業意識に立ち返って、政治との距離を再考する時である」。この政治との異常接近の弊害を憂う著者の結びの言葉が、心に重く響いてきます。