外国人が興味を惹かれる日本史のポイントとは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1910)】
雨にも負けず、図書館のムクゲが健気に咲いています。
閑話休題、『外国人にささる日本史12のツボ――世界96カ国をまわった元外交官が教える』(山中俊之著、朝日新聞出版)は、外国人が興味を惹かれる日本史のポイントを12挙げています。
●深く自然を崇拝する心。「日本では、自然との共生を重視する宗教観が生まれた。また、自然災害が多いため、自然を崇拝すると同時に畏れもする国になった。自然信仰と祖先信仰が基になった神道は仏教と習合していった。宗教の共生を認める日本では、他の宗教へのヘイトクライムが少ない」。
●無駄を省く禅の思想。「世界のセレブが禅を学ぶなど人気が高く、禅は世界的に知られている。海外の人たちが禅に感じる魅力は無駄を徹底的に排した本質重視の思想にある」。
●世界最古のロイヤルファミリー。「古代においては継続性について学術的な論争があるものの、天皇制は血統として1500年前後は継続している。これは世界の皇帝・王制の中で唯一のことであり、伝統を重視すると言われる日本社会の一つの典型的な事象と世界では捉えられている。天皇は、他の国の皇帝や国王と比較して政治的権力が弱い一方で、幕府など他の政治権力が天皇制自体を滅ぼそうとしたことがほぼないという歴史的事実に、海外の人たちは驚く」。
●世界最先端の先物取引・物流。「先物取引などの商取引、飛脚などの物流、汚職がほとんどない政府・・・。江戸幕府には、当時の世界水準から見ると最先端のレベルといえる仕組みがあった」。
●ハイレベルな江戸庶民の教育水準。「明治維新以降の経済成長の大きな要因の一つは、江戸時代の庶民の教育のレベルの高さである。庶民に寺子屋が浸透し、読み・書きだけでなく、実際の社会に役立つ実務教育や理系・自然科学系の教育も実施されていた。庶民からハイレベルの能力を持つ人材が生まれ、学のある人は庶民の出身であっても支配階層の武士を含め身分を問わず人々の尊敬を集めた。江戸時代の出版の繁栄は同時代の世界で類を見ないほどだった」。
●サステナブルな江戸の暮らし。「江戸時代は、紙でも衣服でも何度も再利用した、そのためゴミは現在の我々からは想像できないほど少なかったと言われる。江戸の街は上下水道が整備されており、上水道の規模は世界一だったと言われる。庶民でも毎日風呂に入るなど清潔だった」。
●世界の美意識を変えた葛飾北斎。「葛飾北斎をはじめとした浮世絵は、ヨーロッパの印象派の画家に多大な影響を与えた。このような日本美術の世界への影響をジャポニスムという。ジャポニスムは当初フランス社会での評価が芳しくなかった印象派の画家たちの評価を上げたと言ってもよい」。
●ユニークに進化した日本の古典芸能。「歌舞伎で扱われる、敗者への共感や主人公が耐え忍ぶ姿への共感といったテーマは、ギリシャ悲劇などを除き海外の古典的な演劇では取り上げられることは少ない。また、歌舞伎の舞台技術は、同時代の欧州の演劇舞台の技術と同等かそれを上回っていた。観客の想像力を頼りに一人で何役もの人物を演じる落語は、世界でも稀な演劇形態である」。
●吸収と融合とオリジナリティが同居する文化大国。「日本は中国文化を選択的に受容して、創意工夫をもって昇華させた。その結果、海外からも強い関心を持たれる文化大国になった」。
●キリスト教と日本人。「古代ローマ帝国によるキリスト教弾圧を除くと世界に類を見ない厳しいキリスト教弾圧を行った江戸幕府によって、結果として『潜伏キリシタン』が生まれ、この禁教時代を生き抜いた。このような過酷な弾圧下で200年以上にわたり人目を忍んで耐えるという状況は世界のキリスト教史上唯一のことで、世界のキリスト教徒の感動を生んだ」。
●地方の多様性・独自性。「室町時代には多くの地方都市が発展し、その地方の発展は戦国時代から江戸時代にかけて各藩の文化や産業として発展した。歴史は首都の政治経済を基に語られることが多いが、ミクロに見ると、日本には歴史的にも、現在も魅力ある地方が多い」。
●室町以前の女性の活躍。「古代邪馬台国の卑弥呼は世界史でも稀な古代の女性国家指導者であった。女性天皇も古代を中心に10代8人存在する。自らも政治的に活躍し、鎌倉・室町期の混乱期を乗り越えた源頼朝の妻・北条政子や足利義政の妻・日野富子など、室町時代までは女性の地位は高かったと推測する」。