榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

寂れ、崩れゆく消滅間際の遊廓の写真たちが、多くのことを語りかけてきます・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1977)】

【読書クラブ 本好きですか? 2020年9月12日号】 情熱的読書人間のないしょ話(1977)

芒(のぎ)をたくさん付けたススキの穂が風に揺れています。マメアサガオが小さな白い花を咲かせています。

閑話休題、写真集『遊廓』(渡辺豪著、新潮社・とんぼの本)には、次から次へと、寂れ、崩れゆく消滅間際の遊廓の建物が登場します。

著者・撮影者の渡辺豪は、こう語っています。「遊廓に興味を持ち、各地を訪ね始めたのが2010年ごろ。これまでのおよそ10年で、遊廓を含む500箇所内外の娼街を訪れました。・・・個別的な例外はあれど人身売買、性暴力、搾取が常態化していた事実は揺らぎません。・・・私は今、『遊廓の美しさ』について、こう考えます。――娼家の建築様式は継ぎ接ぎであり、一見した美しさは虚ろな買売春を糊塗する虚飾に過ぎない。しかし虚で隠された実の部分、すなわち男と女、富と貧、善と悪、愛と欲、嘘と誠、対になって意味を成すこれらは、いつの時代にも私たちが答えを求めて止まない価値の源泉であり、娼家はそれを感じたり学んだりできる唯一の建築である。そして、たとえ資力を投じてカタチだけをなぞったとしても、生き様の跡はもはや再現が不可能であるからこそ、私たちは当時の建築を次の世代に渡したくて、愛おしく大切に思うのだと」。

一行の説明文もない写真たちが、私たちに多くのことを語りかけてきます。