あなたのプロジェクトを成功させる9カ条とは・・・【MRのための読書論(177)】
広げ人と畳み人
『「畳み人」という選択――「本当にやりたいこと」ができるようになる働き方の教科書』(設楽悠介著、プレジデント社)は、出版関係者の手になる本だが、内容が実に具体的で応用可能なので、さまざまな分野の組織でリーダー的立場にいる人にとっては、間違いなく参考になるだろう。
「『畳み人(たたみにん)』というのは、大風呂敷を広げたようなビジネスアイデアを、きちんとした形に畳める人というたとえを基にした造語です。経営者やプロジェクトリーダーの突飛なビジネスアイデアを着実に実行し、形にできる人のことを指します。僕はやりたい仕事ができるようになるための最良のルートは、この畳み人のスキル(畳む技術)を身につけることだと確信しています」。
「ビジネスにおいて『突飛なアイデア』という大風呂敷を広げる経営者やリーダーを『広げ人』と仮に定義するならば、僕が本書で定義したい『畳み人』は、仕事のアイデアを形にし、着実に実行に移す仕事人のことです。リーダーに対する『名参謀』や『右腕』のような存在と言ってもいいでしょう。広げ人が仕事のアイデアをゼロから生み出す『0→1の人』だとすれば、畳み人はその1を10にも100にもする仕事です」。
プロジェクトを成功させる9カ条
本書の読み所は、「畳み人のチームビルドとマネジメント術」の9カ条である。
第1条=仲間を集める時は、スペックより「伸びしろ」を最優先に考えよ。「プロジェクトチームを作るうえで大切なのは、何より『人』です。人を集める段階では、できるだけプロジェクトの内容に共感してくれる仲間を集めましょう。スキルも大事ですが、それ以前に、この『共感』があるかどうかがプロジェクトの成否を左右します。人は心の底から実現したいと思ったことは、できるまで努力します。その原動力となるのが、『共感』や『やる気』なのです」。
第2条=チームメンバーの働く目的を理解せよ。「メンバーそれぞれの働く目的を理解したうえで、その目的をチーム全体の目的とつなげることは、チームマネジメントで大切なことです。出世に興味のあるメンバーに出世の魅力をうたうと響くように、今の仕事が本人の望む目的につながる可能性を示してあげることが賢明でしょう」。
第3条=100%のチームはできないことを自覚せよ。「チーム作りでは、あなたの理想を100%実現することは不可能だと思っておいたほうがいいです。・・・チームで成果を出そうと思ったら、『100%のチームを作る』という理想を捨て、『100%に近いチームを作る』に変えましょう。現時点で80%の力しかなくても、今いるメンバーでどうやって100%のチームと同じパフォーマンスを出すか、メンバーのポジショニングや仕組みの改善などを検討するのです」。
第4条=広げ人の熱量の伝道師であり、翻訳者であれ。「畳み人は、広げ人に代わってチームメンバーとコミュニケーションを取り、その熱量をチーム全体に伝え続けましょう。ただし広げ人の言ったことを言葉でそのまま伝えるだけでは不十分です。できればその広げ人の熱量を冷まさず伝えるようにしましょう。・・・広げ人のビジョンには時に大きく、抽象的なものもあります。それをチームで働く各メンバーの仕事に具体的に当てはめて伝えるのです。業務の進め方や使うツールなどを日々の作業レベルに当てはめて指示しましょう」。
第5条=現場の一番の理解者になれ。「とにかくチームメンバーの声に耳を傾けましょう。定期的に1対1の機会を作るなどして、コミュニケーションを取ります。メンバーから日々自分のことを見てもらえている、理解してもらえていると思われるようになることが大切です。・・・そして必要に応じてメンバーの声を広げ人にも伝えましょう。メンバーから出たプロジェクトにポジティブな影響がありそうな意見や、メンバーの頑張りや成果を積極的に伝えるのです」。
第6条=現場判断は畳み人の重要ミッション。決して広げ人への連絡係になるな。「プロジェクトの根幹や方針に関わる大きな意思決定はリーダーである広げ人が行うべきですが、とくに日々の仕事で発生する中小規模の意思決定を行うのは、現場を指揮する畳み人の大事な仕事です」。
第7条=Doと言うのが広げ人、Howを伝えるのが畳み人。「畳み人は、どのようにして(How)広げ人の掲げた目標や指示を達成するかを考え、メンバーに伝えましょう。この瞬間は、まさに畳み人の腕が試される時です。畳み人が具体的に仕事の進め方を指示することによって、プロジェクトメンバーは各自の仕事をスムーズに進めることができます。・・・(Howの)内容をマニュアル化することをおすすめします。・・・マニュアルは、動画で作成することをおすすめします。ふだん使っているパソコンで作業する様子を、口頭で説明しながらスマホで撮影するだけで十分です。なぜ動画をすすめるのかと言えば、マニュアル作成に時間を取られてしまうという落とし穴があるからです」。
第8条=リスクの芽を事前に摘み取れ。「畳み人は全てのリスクを想定し、できるだけそれが起こらないように準備をすること。そして、トラブルが起こった場合は記録して、次のトラブルに備えること。小さなステップを積み重ねることで、リスクの芽を少しずつ摘んでいけるようにしましょう」。
第9条=成功はチームメンバーの手柄、失敗は自分の責任。「自分が会社から正当な評価を得るためにも、『成功はチームメンバーの手柄、失敗は自分の責任』という心構えで、日々の仕事に取り組みましょう」。
三共(現・第一三共)時代、イーピーメディカル時代を思い返しても、思い当たることばかりだ。若い時に本書に出会っていたならばと思うこと頻りである。
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