榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

古生物学者になりたいという夢を実現した若き女性の奮闘記・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2016)】

【amazon 『もがいて、もがいて、古生物学者!!』 カスタマーレビュー 2020年10月21日】 情熱的読書人間のないしょ話(2016)

トノサマバッタの緑色型(写真1、2)、ショウリョウバッタの褐色型(写真3)、ツチイナゴ(写真4、5)、ツチイナゴの幼虫(写真6)、エンマコオロギの雄(写真7、8)、ケラ(写真9~11)、クロツヤミノガの幼虫(ミノムシ。写真12)をカメラに収めました。

閑話休題、『もがいて、もがいて、古生物学者!!――みんなが恐竜博士になれるわけじゃないから』(木村由莉著、ブックマン社)は、1粒で3度美味しい本です。

本書のキーワードは、「夢を追う」、「研究する」、「もがいて、もがいて」の3つです。

1度目の美味しさは、若き女性が途轍もない夢を実現するまでのプロセスを、あたかも自分のことのように生き生きと実感できること。同時に、古生物学者を目指す人にとっては、恰好の指南書となっていること。

「古生物学は考古学と混同されがちであるが、理系と文系という大枠で異なるので注意してほしい。研究に利用する手法が同じである場合が多いので、不思議なところであるが、考古学は人間が生活している時代に地中に埋まった異物やそれと一緒に見つかる動物を研究対象とした文系分野で、古生物学は人間よりも古い地質時代の生物を研究対象とした理系分野である。受験勉強という点では、文系と理系という最初の大きな分かれ道で、考古学と古生物学では別の方向に行ってしまう。古生物学舎を目指すなら理系だ」。

2度目の美味しさは、読んでいるうちに、生物の進化に関する最新知識が、いつの間にか勉強できていること。

「恐竜が陸の覇者であった頃、哺乳類は『真の哺乳類らしさ』を獲得する途中段階を経て『真の哺乳類』へと進化した。彼らは『恐竜の時代には哺乳類はネズミのようで・・・』と表現されることが多いが、厳密にはネズミ(齧歯類)ではない。(任天堂の人気ゲーム)あつ森(『あつまれ どうぶつの森』)で登場したネズミのようなジュラマイアも、(諸説あるものの)骨や歯の特徴から原始的な有胎盤類であると考えられている。つまり、ネズミだけでなく、ウマ、キリン、クジラ、センザンコウ、ライオン、サル、ウサギなど、動物園や水族館で見られる人気者たちを子孫に持つ祖先的な動物ということだ。真の哺乳李がどのように誕生したのか、そして初期の哺乳類の進化とはどんなものだったのか。それを知る上で、中生代の小型哺乳類化石はとても重要なのだ」。

3度目の美味しさは、いい師たちとの出会い、劣等感を抱かざるを得ないほど優秀な仲間たちとの切磋琢磨、米国留学・中国留学・米国のスミソニアン自然史博物館就職・日本の国立科学博物館就職――という目まぐるしい過程が、波瀾万丈の青春物語として楽しめること。

米国留学中の心境が、このように綴られています。「もがいて、もがいて、ようやく少し上のステージにたどり着くと、そのステージには、同世代のスター研究者がいた。彼らにはとても敵わないということも、ずっと前から気づいていた。・・・一人前の研究者になるには。ここからは多くのライバルたちとの戦いになる。自分がまわりと比べてキラッと光る研究をしているのか、そんなことを考えると、正直なところ、なかなか自信が持てなかった。『好きだ、好きだ』という気持ちで続けてきたが、いつの間にか、この戦いに生き残れるかという不安が大きくなり、それはプロの研究者として生きるには正しいプロセスなのだと思うが、憧れと現実のはざまで気持ちが揺さぶられるようだった」。

国立科学博物館勤務初日の決意表明。「感謝でいっぱいのこの道の先には、どんな生活が待っているのだろう。まずは宿題となってしまった『進化のモノサシ』論文を完成させるところからだ」。

「私は古生物学者。東京は上野にある国立科学博物館(以下、科博)が私の勤め先で、小さな哺乳類の化石を研究している。とは言っても、科博の研究施設は上野から1時間ちょっとの茨城県つくば市にあり、主な勤務地はここ。・・・標本を観察している時間が最高に幸せ。・・・顕微鏡で堆積物を注意深く見つめ、ピンセットではじきながら、砂粒か化石かを判断していく。数時間ほど作業をしていると、哺乳類の歯の化石が見つかった。小さな化石だけど、複雑な形をしていて、本当にかっこいい。この歯化石の持ち主について調べることが、私の研究のひとつである。博物館の研究員としての私の主な仕事は、標本の管理(化石の標本化、データベース作成作業、研究や展示のための貸出など)、展示、教育普及関連、そして研究活動である。博物館の展示室でトークをしていない時は研究ばかりしていると思われがちなのだが、研究以外の仕事も実は多い。研究ができるのは、週5日間の勤務時間のうち、平均してだいたい1日くらいだろうか」。