一晩に30人の村人が次々に惨殺されたのは、なぜか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2044)】
あちこちで、イロハモミジ(写真2~9)、オオモミジ(写真10~13)、ヤマモミジ(写真14、15)が紅葉の、イチョウ(写真16、17)が黄葉の見頃を迎えています。因みに、本日の歩数は13,864でした。
閑話休題、「読書クラブ 本好きですか?」のずっと年下の読書仲間・遠藤真央さんから薦められた『ミステリーの系譜』(松本清張著、中公文庫)を手にした。本書は、『闇に駆ける猟銃』、『肉鍋を食う女』、『二人の真犯人』の3篇で構成されている。
『闇に駆ける猟銃』は、昭和13(1938)年に岡山県津山地方で起こった大量殺人事件を、検事の報告書、警察の調査、関係者の証言、犯人・都井睦雄(22歳)の遺書を基に抑えた筆致で、睦雄が30人の村人を次々に殺していく場面を生々しく描いている。
「津山事件は――人々はそう名づけている――ある意味で日本の山村のもつ宿命の中に起った事件ともいえる。山あいに押しこめられて孤絶した環境、一切の娯楽から切りはなされた条件、生活に強いられている単調な労働。毎日見るのはいつも同じ顔だ。自分のことはもとより、祖父母や曽祖父母、その遠い係累の履歴まで全部村人が知っている。ちょっとした夫婦喧嘩も三十分後には全村に知れわたっている。隣の家との間は遠いが、噂の波及はおそろしく速い。外界と遮断されているこの小社会は、それ自体、同じ家の中に暮しているようなものだ。狭隘な、息の詰りそうな場所である。その上に、因習と頑固な偏見とが根を張っている。因習のなかには、古い農村に独特な『性の風習』もある」。『性の風習』とは、この村では夜這いが容認されていたことを指している。
「都井睦雄の犯行の動機は、同部落の女数人に対する憎悪が主体となっている。他の人々は、その捲き添えか、または偶然その場に泊り合せた不幸な無関係者である。睦雄の憎悪の対象になったのは、彼が関係するか、または恋情をもった女ばかりである。その中で最も彼が怨んだのは西田ミネと時本スミの両女である。事件発生時、ミネは四十三歳、スミは三十五歳であった」。
事件後、「各戸を回ってみて、そのむごたらしさに巡査は呆然となった。どの家も人間の死体が三つも四つも血の海の中に転がっている。巡査は動顛した」。
このルポルタージュ的作品を松本清張はどういう気持ちで書き続けたのだろうか。人間は、状況によっては、こうした異常な事態を引き起こすことがある、ということを訴えたかったのだろうか。