研究者たちにエールを送りたくなる、研究者の哀歓が滲む川柳集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2067)】
凄い朝霧よ、という女房の声を聞くや否や、取る物も取り敢えず、カメラだけを持って家を飛び出しました。私が霧大好き人間であることを、彼女はよく知っているのです。
閑話休題、『さいえんす川柳――「研究者あるある」傑作選』(川柳 in theラボ編、講談社・ブルーバックス)は、ライフサイエンスの研究者たちが実体験を詠んだ川柳集です。
●細胞と話し始める深夜帯――ヒストンタイラント
●イメチェンをエピジェネティクスとからかわれ――ウルトラマンINO80(生まれつきの<遺伝的な>要素に後から加えた<後天的な>お化粧による変化で美しくなったことを、科学的<?>に表現したようです)
●細胞の前にチームが分裂し――ゲノム
●足音でラボのメンバー同定す――ハエの人(長年ラボにいると、歩くテンポやスピード、音の大きさなど足音だけでラボメンバーを同定できる観察力が養われる?)
●千回の「アイシテル」よりア・ク・セ・プ・ト――何匹目かのどぜふ(学術誌へ投稿すると返事は3択。アクセプト<受理>、リバイス<修正して再投稿>、リジェクト<却下>。長年かけた研究成果がアクセプトされると、天にも昇る心地に)
●マスカラが邪魔だと気づく顕微鏡――ぽんぽん(こまめに世話をする細胞を顕微鏡で観察していると、つい夢中になって接眼レンズに目が近づいてしまうことも)
●9時すぎてラーメン香る研究棟――チョコパイちゃん(深夜の実験のお供といえば、カップラーメン)
●気になるのインスタ映えよりショウジョウバエ――iz
●CRISPR編集できない俺の過去――Iは地球を救う
●究極の理想の体質デバネズミ――あっきー(ハダカデバネズミは寿命が長く、老化やがんに抵抗性があり、がんや再生医療研究のモデル動物として期待されています)
●朝帰り違うのこれはラボ帰り――細胞様の召使い(スケジュール上、どうしても避けられない夜間実験があります。たまにはホントの朝帰り、したいなぁ・・・)
●実験をしてる自分がちょっと好き――みちみち桃太郎
●女子力と実験スキルは反比例――まつ
●リジェクトを重ねた分だけ強くなり――二匹目のドジョウ
●研究費削りに削られ大吟醸――細胞飼い
●iPS私も初期に戻りたい――ホーシューフライ
●飲み会でボスの真向かい譲り合う――イベリンくん
●グラフより曲がってますよその見解――匿名希望
●気がつけば人工知能が僕のボス――第3の矢
●細胞に意外といるのよイケメンが――ギブギブ子(シャーレいっぱいに突起を伸ばした神経細胞は、ほれぼれするほど美しいと感じることも)
●実験を教え、教わり、恋になり――蓮根八九
●細胞に細胞レベルで恋してる――細胞飼い
●失恋の再現性だけ高い僕――ちゃらべ
●私より食費が贅沢iPS――1 Yanagi(iPS細胞は豊富な栄養を含む培養液で丁寧に育てる必要があり、培地交換もほぼ毎日おこなうなど、とても気を使います)
研究者たちにエールを送りたくなる一冊です。