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源頼朝に平家打倒の決起を迫った僧・文覚は、反逆精神の塊のような人物だった・・・【山椒読書論(544)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年4月5日号】 山椒読書論(544)

大型絵本『文覚』(木下順二文、瀬川康男絵、ほるぷ出版)は、絵巻平家物語シリーズ全9巻の第4巻である。

伊豆に流されている源頼朝に平家打倒の決起を迫った僧・文覚については、これ以上のことは知らなかった。本書のおかげで、文覚が超人的な反逆精神の塊のような荒法師だったと知ることができた。その全体像が、格調高い文章と、デフォルメされた印象的な絵によって浮き彫りにされていく。

「文覚という荒法師が、『平家物語』のなかに出没する。豪僧、快僧、また怪僧とよんでもいいだろう。はげしい気性とふくつの闘志と、きょうれつな行動力とで、いかなる権威、権力にもいどみかかり、思ったことをやりぬく人物であった」。

「(文覚は)ひそかに伝手をたよって後白河法皇に、もし伊豆の頼朝に文書をくだされば、かれは立って平家をほろぼす決意でありますと申しいれると、それは法皇ものぞむところであったゆえ、一、二日のうちに『院宣』とよばれるその文書が手にはいった。頼朝のほうは、文覚がほんとうに都へのぼったのなら、どのような災難がわが身におよぶやしれぬとなやみつつ、しかし以仁王の、平家を討てとの令旨も自分はすでにうけとっているし、文覚のたびたびのすすめを思いだしてみるに、もし自分が立って平家をたおすことができたら、それこそ本望だとも思える。あれこれ考えているところへ、あれから八日目という日の昼ごろに文覚があらわれて、『ほら、院宣よ』と、文書をさしだした。頼朝、おどろいてひらいてみると――」。この伊豆~京都間を馬で往復し、たったの8日で院宣を持ち帰るという早業は、超人的な行動力の持ち主・文覚にして初めて成せることだったのである。

「(頼朝は)この院宣を、錦のふくろにいれて首にかけ、いよいよ平家打倒の第一線、石橋山の合戦の旗をあげたのであった。一月後には、いとこの木曽義仲が、以仁王の令旨を奉じて、信濃の国、いまの長野県の山中に、平家打倒の旗をあげた」。

こういう魅力的な絵本で『平家物難』に触れることのできる子供たちは、本当に幸せだ。