『平家物語』の主役・平清盛の地獄絵図のような最期・・・【山椒読書論(545)】
大型絵本『清盛』(木下順二文、瀬川康男絵、ほるぷ出版)は、絵巻平家物語シリーズ全9巻の第5巻である。
平清盛は『平家物語』の主役であるが、本書では、彼の最晩年の数年間に焦点が当てられている。「清盛は、『平家物語』の中心的存在として、よくも悪くも、けたはずれの、巨大な人物であった」。『平家物語』では敵役として描かれているが、史実の清盛は革命者という側面を持っていたことを、私たちは知っている。
「入道相国(清盛)、やまいの床につかれたその日から、水さえのどをとおらず、体のうちのあつさは、火をたくがごとし。ふせっておられるところから四、五間のうちへはいろうとすると、もうあつさにたえられぬ。出される声はといえば、ただ『あた、あた』――『熱つ熱つ』または『あいた、あいた』――とばかり。なにしろただごとではない。比叡山から、つめたい水をくみおろして、石づくりの湯ぶねにたたえ、それにはいってひえようとされると、水はたちまちわきあがって湯になってしまう。ではこれならばと、かけひに水をひいて体にそそいでみれば、やけた石か鉄のように水ははねかえされてしまい、すこしでも体にふれた水は、ほのおとなって燃えあがるしまつ。黒けむりがやしきのうちにみちみち、ほのおはうずをまいてたちのぼるというありさまであった」。清盛にとっては地獄のような有様が、格調高い文章と、デフォルメされた印象的な絵によって描き出されていく。
「もだえ苦しみふしまろび、あかく焼けた鉄板の上にはねるえびのごとくにそりえり、はねあがりつつもだえ死にした。ときに歳六十四歳。父、平忠盛がはじめて昇殿(宮中入り)したあの年から、かぞえて四十九年目であった。・・・清盛が死んだあと『平家物語』は、坂をころがりおちていくような、平家没落の物語をかたっている」。
歴史に「もし」は許されないが、清盛が病死せず、もう少し長生きしていたら、平家はそう易々とは滅ばされなかったのではないか、私はそう考えている。
こういう魅力的な絵本で『平家物難』に触れることのできる子供たちは、本当に幸せだ。