医師の一つのあり方を示している作品・・・【薬剤師のための読書論(47)】
コミックス『人間交差点(4)――埋火』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「遠い唸り」は、医師の一つのあり方を示している。
地方の梅田診療所の医師・佐田は、ある朝、「S県つくわ村で奇病発生か!?」という新聞記事を目にする。「・・・つくわ村病だ。や、奴はまだ絶滅していなかったのか!? 10年も経って、再び出てきたということは・・・いったいどういうことだ!? 10年前、S県つくわ村で突然奇病が発生し、村の住人2人が死んだ・・・。当時、俺はまだ東都医大の助手をしていたが、大学には無断で独自に調査を始めた。何故なら、どこの大学の研究室も医学者も、何故か、この病気に、無関心だったからだ」。
東都医大・築岡教授の調査を止めるようにとの指示を拒否した佐田は、大学を辞めて、つくわ村診療所に勤めることにした。それから苦労を重ねて、梅田診療所に辿り着いたのである。そんなある日、築岡が佐田を訪ねてきた。築岡から聞かされたのは、驚くべきことだった。「・・・正直に言おう、その動物とはサルだ。10年前、私が東南アジアのある国から、研究用に持ち込んだものだ。当時、ある国で広まっていた病気を研究するために、私が日本に持ち込み、S県にある、私の個人的な研究室で研究していた。それが逃げ出し、S県の山中に棲息するサルに感染したのだ」。「・・・何ですって・・・!?」。「あの時、君の研究ノートを読んで私は驚いた。立派なノートだった。・・・しかし、あのまま、君に研究を続けさせる訳にはいかなかった。私がサルを持ち込んだことも、いずれ突きとめてしまうのではないかと、恐れたからだ」。佐田が邪魔になった築岡は、佐田がどこの大学病院にも勤められないように、そして、つくわ村病の研究が続けられないよう、手を回していたのである。
築岡は、最後にこう言った。「つぐないをさせてもらうつもりだ。君に助教授(=准教授)の席を用意してある。大学へ戻って来て(研究に協力して)くれたまえ」。この申し出を受けた佐田が、どういう態度を取ったか・・・。
医師のあり方を考えさせられる作品である。
戻る | 「第10章 人生はドラマだ」一覧 | トップページ