榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

かつてのIT天才少女が屋上に立て籠もった理由・・・【山椒読書論(617)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年11月30日号】 山椒読書論(617)

コミックス『人間交差点(12)――氷の林檎』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「旗」は、ITの天才少女の物語である。

「この鶴見妙子のように、自宅でオモチャのようなコンピューターを駆使して、新しいゲームソフトを作っては秋葉原の電気街に売りに来る少年少女達を、我々は当時『秋葉原少年隊』と呼んでいた」。

太田は妙子に声をかける。「良かったら、毎日おいでよ。ここで自由に機材を使ってドンドン新しいゲームソフトを作っていいんだ。そして出来たものは我社が秋葉原の電機屋の倍の額で買いとってあげる」。

「彼等は我々大卒の技術者以上にコンピューターという新しい生き物をよくとらえていた。彼等は一日中コンピューターと会話し、遊び、次々と新しいソフトを作り上げていった・・・」。

7年後、社員たちが見上げる中、妙子は10時間以上も会社工場の屋上に立ち、降りるよう説得されても、誰か上がって来たら飛び降りると従わない。「何をしているんだ? あの女は・・・」。「よくわからんが、一生懸命背のびして、あの(社)旗を取ろうとしているらしい・・・」。「コンピューター以外は何も知らない人間なんだな・・・旗の降ろし方もわからないぐらいだから・・・」。

太田の同僚の木下の言葉。「もはや秋葉原少年隊の時代じゃない。研究所は、あの少年達を、いや、頭を使い切ってしまった大人達をどう処分したらいいのか悩んでいる・・・」。

「他人とほとんどまともな会話さえ出来ない程、頭を摩耗させられ、傷つけられ、破壊されたまま残されて・・・ところで妙子は、あの上に登って何故旗を取ろうとしているんだろう・・・」。

屋上に上がった太田がしたことは・・・。